研究課題
本研究課題「ホメオボックスコードによる哺乳類の異形歯性を制御するメカニズムの解明」を遂行するために、顎原基におけるMsx1遺伝子の発現制御メカニズムを解析する必要がある。そのために、動物種間でのゲノム配列比較によるエンハンサー配列の推定と胚への遺伝子導入によるエンハンサー活性検出という従来広くおこなわれていた手法を研究課題立案時に予定していた。しかし、近年染色体の立体構造と相互作用をより直接的に解析する手法が開発されてきており、本研究においても4C-seqという解析法を導入すべきだと考えた。初年度は4C-seqの実験手技と解析法の導入を中心に以下のような解析をおこなった。ニワトリ4日胚よりMsx1を発現している上顎、下顎、肢芽の間充織組織を単離、単一細胞に分離した後に固定して3D構造を保ったままの染色体試料を得た。制限酵素処理、DNAのライゲーション、PCRなどのステップを経て、Msx1遺伝子のプロモーター領域に相互作用しているゲノム配列ライブラリーを作成、次世代DNAシーケンシングによって塩基配列の決定をおこなった。R言語を用いた4C解析アプリケーションを導入して、Msx1のプロモーター領域に相互作用する配列をニワトリゲノム3メガ塩基対にわたってアノテーション、プロットを得た。当初予定していた実験計画とは異なる新しい解析手法を導入することで、Msx1遺伝子の発現制御について理解するための基盤的なデータを得ることができた。このデータについてさらに解析を進めることにより、Msx1遺伝子の発現制御メカニズムについて上顎、下顎、肢芽での比較が可能となる。また、胚が入手しやすいニワトリを材料として実験/解析をおこなったが、マウスやオポッサムといった哺乳類胚の組織を用いた解析のための技術的な基礎を築くことができ、次年度の研究をより加速できると考えている。
2: おおむね順調に進展している
研究課題立案時に予定していた、動物種間でのゲノム配列比較によるエンハンサー配列の推定と胚への遺伝子導入によるエンハンサー活性検出という従来広くおこなわれていた実験手法を、染色体の相互作用をより直接的に解析する4C-seqという最近開発された解析法に変更した。そのため、新しい実験手技の導入や、次世代DNAシーケンシングによって得られたデータのドライ解析法の習得に時間を要した。実験・解析のタイムテーブルが異なるため、当初の実験計画との直接的な比較は難しいが、トータルで見た場合の進行度はそれほど遅れているとは考えていない。より高いレベルの解析が可能となったことから、今後の進展速度はむしろ加速すると予想している。
初年度にはニワトリ胚組織を用いて4C-seqによる解析技術を導入できたので、今後はマウスやオポッサムといった哺乳類の胚組織で同様の解析を進める予定である。すでに予備的な実験をおこなっているが、ニワトリ胚の顎原基を用いたエンハンサー活性の解析法の開発を進める。
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Development, Growth & Differentiation
巻: 63 ページ: 93~99
10.1111/dgd.12705