すなわち顎の基部から先端部にそって形態・機能の異なる歯が分化する異形歯性は哺乳類の特徴の1つであるが、発生過程において特定の歯が生える領域がどのようにして決まるのかは、顎原基間充織で領域特異的に発現するホメオボックス遺伝子群の組み合わせによって規定されていると考えられている(ホメオボックスコード)。ヒトの部分生無歯症の原因遺伝子であり、コードの1つであるMsx1遺伝子がどのような発現制御を受けているのかはよくわかっていない。本研究ではMsx1遺伝子の発現制御をになう顎原基エンハンサーの同定を目標としている。ニワトリ胚の上顎隆起および下顎突起を材料として4C-seq解析おこない、Msx1のプロモータ領域と相互作用するゲノム配列を同定した。その結果と動物種間の配列の保存状態から顎原基エンハンサーの候補を選び、ニワトリ胚へ遺伝子導入をおこなって、これまでに鼻隆起エンハンサー、下顎突起エンハンサー、上下顎エンハンサーを複数同定した。また、マウス胚の上顎隆起・下顎突起を用いて4C-seq解析おこなった結果、一部のエンハンサー候補配列が哺乳類に特異的、もしくは哺乳類でも有胎盤類にのみ保存されていることがわかった。これらのことから、哺乳類の進化とともにMsx1遺伝子の発現制御に変化が生じ、これが異形歯性の発達に貢献した可能性が示唆された。また、過去の後肢芽組織を用いたChip-seqデータを解析したところ、上記の顎原基エンハンサーのいくつかにPitx1という転写制御因子が結合することがわかった。Pitx1は下顎原基でも発現していることから、Msx1の発現制御を介して異形歯性の制御に関わっている可能性が考えられた。
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