本研究では臓器新生の試験管内で再構築する目的で、自己組織化のシグナル経路解明によるヒト多能性幹細胞からの心肺連携オルガノイド作製技術を完成させるとともに、遺伝子発現、組織学、微細構造解析などにより有効なオルガノイド性質評価系の構築を試みた。 マウスES由来心臓オルガノイド作製技術を基盤にヒトES細胞由来心臓オルガノイド作製を試み、成功した。特に、FGF4シグナルだけではなくマウス胎児の心臓で発現するBMP10を添加することで形態変化の精度が高い心臓オルガノイドを作製できた。さらに心臓オルガノイドの心筋細胞をより成熟させるためにWntシグナルを抑制する小分子阻害剤であるPORCN 阻害剤(C59)と脂肪酸の添加により、心筋細胞の成熟度を向上させることができた。これらの心臓オルガノイドは胎児型心臓に形が類似していて、蛍光免疫染色によって心筋細胞のマーカーを発現していることが明らかとなった。これらのヒトES由来心臓オルガノイドはNaイオンチャネルタンパク質とCaイオンチャネルタンパク質を持つだけではなく、Na電流とCa電流が確認され、各電流のパターンは生体の心臓に極めて似ていることが明らかとなった。その他にもHERGやIK1チャネルの発現が確認されたことからヒトES由来心臓オルガノイドは心臓の電気生理学的性質を総合的に再構築したものであると考えられる。 さらに、ヒト多能性幹細胞からの心肺連携オルガノイド作製技術を確立するためには、マウス生体における肺発生のシグナル因子の中のFGFシグナルと、そのシグナルの働きを干渉する阻害剤を用いて、試験管内で心臓と肺の発生を試み、ROCK阻害剤が肺オルガノイド作製に重要であることを明らかにした。また、より生体に近い心臓オルガノイドの作製やその評価のために肉柱形成の定量的画像解析法の構築を行ない、心臓オルガノイドの中の肉柱形成を証明した。
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