研究実績の概要 |
2022年度は次の(1)-(4)に取り組んだ: (1) 2020, 2021年度に得た研究成果を論文としてまとめる。(2) 細胞の動きによる遺伝子発現リズム同期の統計記述方法を空間2次元および3次元の場合へと拡張した。導出した近似式をオリジナルのモデルの数値シミュレーションと比較することで近似の妥当性を検証した。空間位相パターンの勾配が大きいと非線形項の影響が強くなり、線形近似を使用している箇所で近似精度が失われてしまうことを明らかにした。(3) 統計記述の手法を細胞間のカップリングに時間遅れがある場合に拡張した。拡張した式を使い、我々の先行研究で予測した同期までにかかる時間などの特徴量を再導出することができた。Delta-Notchシグナルによる細胞間カップリング、細胞の動き、組織伸長、前後軸に沿った分節時計の周期勾配を含んだ新しい体節形成のモデルを導出することができた。(4) 動く振動子の統計記述方法を応用し、細胞の動きがモルフォゲン勾配の読み取りに及ぼす影響を調べた。モルフォゲン勾配に対する遺伝子発現の感受性が高いと、細胞の動きにより空間パターンの分散が大きくなる。合成されたタンパク質の分解速度が速いと、読み取りの分散は小さくなることを明らかにした。 研究期間を通して得られた成果の概要は(1) 遺伝子発現リズムを示す細胞(移動する振動子)の統計記述手法の開発、(2) 組織の前後軸に沿った細胞移動速度の空間勾配が分節時計の波に及ぼす影響の解明、である。細胞の動きは分節時計の空間パターンに対するノイズとしてはたらく場合と、リズム同期を促進しロバストにする場合がある。どちらとしてはたらくかは、空間パターンの波長に依存する。波長の長い組織後方では細胞が動いても分散は大きくならずリズム同期が促進される。波長の短い組織前方では、細胞は動かないため分散は小さく保たれる。
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