研究課題/領域番号 |
20K06654
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小島 洋児 京都大学, iPS細胞研究所, 特定拠点助教 (70720811)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 始原生殖細胞様細胞(PGCLCs) / ヒトiPS細胞 / 単一細胞トランスクリプトーム / ネットワーク / 因果推定 |
研究実績の概要 |
令和2年度は数学者による因果推定手法(LiNGAM法)を遺伝子発現の因果に応用する基盤を作製し、考えられる候補遺伝子を上位10個絞ることができた。一方で、近年発展してきている単一細胞トランスクリプトームの解析における、革新的なノイズ除去法を別のプロジェクトで開発したことから、これを用いた解析を行うために、ヒトiPS細胞から始原生殖細胞様細胞(Primordial germ cell-like cells; PGCLCs)へと分化する4日間の過程で半日おきに細胞を回収し、10Xクロミウムを用いた単一細胞トランスクリプトームのデータを作製した。この解析にも前述のノイズ除去法を行い、数学的なクラスター手法を用いて、PGCLCsになる細胞集団において、経時的に特徴的な発現変動をしている遺伝子の抽出を行った。この手法では、これまでにPGCLCsの運命決定に関与の示されているGATA3, SOX17, TFAP2C, BLIMP1, TFAP2Aといった遺伝子も検出できており、前述のLiNGAM法を基盤とした手法と共通したものも含め、有力な候補を絞ることができた。さらに、従来のデータではPGCLCsになる細胞のデータしか得られなかったが、単一細胞トランスクリプトームを行うことにより、PGCLCsを誘導している際に出現する、PGCLCs以外の細胞の系列に特徴的に発現している遺伝子も抽出することができた。このように、トランスクリプトームデータに対して複数の数学的手法を用いてPGCLCsの運命決定に関わる候補遺伝子の抽出に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では単一細胞トランスクリプトームをやる前に、これまでに集めたデータからの候補遺伝子抽出をして、実際にiPS細胞でノックアウトや過剰発現を行う予定にしていたが、単一細胞トランスクリプトームの解析法の改良が進んだため、こちらを優先した。その結果、従来のデータでは見られなかった候補遺伝子を複数選出することができ、ヒトiPS細胞モデルで検証を要する遺伝子数をより絞り込めたと考えられる。さらに、今後それぞれの遺伝子改変iPS由来のPGCLCsのトランスクリプトームを評価する際の堅固な基盤を作製することができたため、全体の期間に対しては順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
上述のようにこれまでに数学的手法の改良が進んだため、本年度以降では、これらの候補遺伝子のノックアウトや過剰発現によるPGCLC誘導への影響を評価する。単一細胞トランスクリプトーム解析と順序が入れ替わったが、遺伝子改変の手法などは計画と変わりなく、改変iPS細胞由来のPGCLC誘導産物のトランスクリプトームとの比較など、予定通り行い、この過程の遺伝子制御ネットワークを詳細に明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目に10xを含めたRNAシークエンス用に確保していた予算だが、今年度取得したデータに関しては、同研究室の他プロジェクトにて購入した試薬が使用期限切れになる直前に譲渡を受け、本研究に用いることができたたため、計上していない。 ただし、本研究の遂行に当たり、次年度に購入が必要となると考えられたため、残高の繰り越しを要した。
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