研究課題/領域番号 |
20K06655
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒巻 敏寛 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (30525340)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サイズスケーリング / 細胞膜電位 |
研究実績の概要 |
表皮細胞の膜電位変化がヒレの形態に及ぼす影響を解析するために、光遺伝学の技術を利用して表皮細胞の膜電位を任意に操作する系の構築を試みた。トランスジェニック技術を用いて、青色の光に応答し開口する陽イオンチャネル、チャネルロドプシンを表皮細胞に発現させる。これにより外部からの光照射によって膜電位を上昇させることが可能になる。これに加え、逆に膜電位を低下させる機能を持つ変異型kcnk5bチャネルを同時に発現させることで、光照射のオン・オフにより膜電位を任意に上昇・低下させることが可能になるはずである。実際にトランスジェニックフィッシュを作成し実験を行ったところ、チャネルロドプシン単独でのヒレの形態操作には成功したが、kcnk5bチャネルとの2重トランスジェニックフィッシュではヒレの形態変化を誘導することができなかった。 これまでの研究から、表皮細胞にも神経細胞のような電気的な活性があることが推測されてはいるが、未だその実態の検出には至っていない。そこで、表皮細胞集団内で実際に膜電位が変動、伝播していることを観測するための系を構築した。まずは検出感度を第一に考え、神経活動の検出にも用いられる、細胞内カルシウム動態による間接的な検出を試みた。細胞内カルシウムレポーターGCaMPの中でも特に検出感度の高いものを表皮細胞に発現させたところ、レポーター活性の変動が観察された。このことから、表皮細胞においても細胞内カルシウム濃度変化を伴った膜電位の変動が起こっていることが推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表皮細胞にチャネルロドプシンを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュでは、青色光を照射しない環境で飼育した場合にはヒレは正常の大きさになるが、青色光照射下で成長させた場合にはヒレは短くなった。このことから、表皮細胞における膜電位の上昇はヒレの伸長を抑制すると考えられる。また逆に、膜電位を低下させる変異型kcnk5bチャネルを発現するトランスジェニックフィッシュではヒレは長く伸長した。すなわち、膜電位の低下はヒレの伸長を促進すると考えられる。次に、表皮細胞にこれら2つのチャネルを発現するトランスジェニックフィッシュを作成し、青色光照射下あるいは非照射下で飼育した。予測では、青色光がない場合にはヒレは長くなり、青色光がある場合には短くなるはずであった。しかしながら実際の結果では、いずれの場合でもヒレは長く、チャネルロドプシンの効果は確認できなかった。おそらく、変異型kcnk5bチャネルによって膜電位が恒常的に低下した状態から、チャネルロドプシンを用いて膜電位を上昇させるためには、単独で発現させた場合よりも高いチャネルロドプシン活性が必要であると考えられる。 表皮細胞で起きている膜電位の変化は、電気信号伝達に特化した神経細胞のものよりも小さく、遅いものであると予想している。そこで、細胞内カルシウムレポーターGCaMPシリーズの中でも特に検出感度の高いGCaMP6sを選び、これを表皮細胞に発現するトランスジェニックフィッシュを作成した。これまでの観察で、ヒレが損傷を受けた際にレポーター活性の上昇が起こり、またそれは損傷部位からヒレ全体へと広がってゆくことが観察された。このことから、表皮でも細胞内カルシウム濃度変化を伴う膜電位の変動が起こっており、それは表皮細胞間を伝播すると推測される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である表皮細胞の膜電位によるヒレの形態制御機構の解明のためには、膜電位の人為的操作とヒレの形態変化とを密接に関連させた実験系が必要である。しかしながら上述の通り、チャネルロドプシンとkcnk5bチャネルとの単純な組み合わせではヒレの形態変化を誘導することはできなかった。この問題を解決する方法の一つとして、チャネルロドプシンの発現量をより高めることを計画している。我々はすでに、細胞種特異的にトランスジーンの発現量を劇的に増大させる技術を有しており、これを用いて膜電位操作系の改良を行う。 表皮細胞における膜電位変動の可視化については、すでに作成したGCaMP6sトランスジェニックフィッシュを用いて細胞内カルシウム変動の経時的観察を行う。ヒレの形態制御と関連したGCaMPシグナル動態が観察された場合には、膜電位レポータータンパク質や膜電位指示薬などを用いて、膜電位ついても同様のシグナル変動が観察されるかどうかを確かめる。 これまでの解析では魚の成長に沿ってヒレの形態を観察していたが、解析に十分な大きさになるまでに2ヶ月から3ヶ月ほどかかってしまう上に、ヒレの伸長も遅い。一方、ゼブラフィッシュのヒレは非常に再生能力が高く、ヒレの切除後2週間ほどで元の大きさにまで再生することができる。これを利用して、研究の効率化のために再生ヒレを用いた実験系も試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の実験では既存の装置をそのまま利用することができたため、新たに装置や試薬を購入する機会が予定していたよりも少なかった。しかしながら、次年度では現状の実験系に生じた問題を解決するために、当初の計画にはなかった新たな実験手法の導入や条件検討などを行う必要があり、今回生じた次年度使用額はそのための予算として活用する。
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