本年度はCRISPR/Cas9技術を用いた遺伝子スクリーニング法の構築と光操作技術を用いた多細胞構築過程に重要なシグナル伝達経路の変調を実施した。遺伝子スクリーニングでは、細胞性粘菌の全遺伝子を対象としたガイドRNAライブラリーと全キナーゼ遺伝子を対象としたガイドRNAライブラリーをそれぞれ設計した。これらのガイドRNAを含むCRISPR/Cas9ベクターを細胞に導入することで変異プールを構築し、さらに多細胞構築やシグナル伝達経路に異常を引き起こした変異体を単離・濃縮した。この変異体から抽出されたDNAに含まれるガイドRNAを次世代シーケンサーで解析することで、多細胞体構築に必須な遺伝子を特定した。以上のように、原因遺伝子の同定を迅速かつ網羅的に行えたことから、CRISPRライブラリーを用いた有用な遺伝子スクリーニング法が確立した。一方、光操作技術を用いた研究では、cAMP振動の再構成を実現した細胞にさまざまな周波数で光刺激を与えると、cAMP振動は低周波数から高周波数まで一貫した応答性を示すことがわかった。さらに転写因子の核と細胞質間の移行を同時にモニターすることで、3分以下の高周波刺激には転写因子が応答できないことを明らかにした。これはこの転写因子がローパスフィルタ機能を示すという以前の仮説を強く支持する結果となった。研究期間全体を通じて、イメージング解析に用いる細胞株作製を効率的に行うCRISPR/Cas9技術を確立するとともに、光刺激などの細胞操作技術を用いた多細胞組織構築過程の原理の理解を行った。
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