研究課題/領域番号 |
20K06661
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
岡村 大治 近畿大学, 農学部, 講師 (80393263)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ヒトiPS細胞 / 心筋誘導 / コレステロール生合成阻害剤 / 細胞分裂 / 細胞死 |
研究実績の概要 |
ヒトiPS細胞を用いた細胞治療を行う際、「残存する未分化細胞による腫瘍形成」が今なお大きな課題として残されている。最近我々はコレステロール生合成阻害剤が、増殖過程にある未分化な多能性幹細胞のみならず、未成熟分化細胞のほぼ全てを死滅させることを見出した。より重要なことは増殖を止めた成熟分化細胞(心筋細胞)の生存・機能には全く影響を与えなかった点にある。本研究提案はコレステロール生合成系の代謝に着目し、iPS細胞を用いた移植医療を行う上でもっとも大きな課題である「腫瘍化の恐れのある未分化細胞を除去」ならびに「成熟分化細胞」を精製/純化するための基盤技術の確立を目指すものである。2020年度は心筋細胞の分化誘導で示した当該コレステロール生合成阻害剤の「未分化iPS細胞の除去」ならびに「成熟分化細胞の純化」の効果を示すことに成功した。さらに当初我々は2021年度にコレステロール生合成阻害剤による細胞死誘導のメカニズムを探る計画であったが、細胞死の直前に通常の培養下では見られない「多核細胞」を数多く観察したことから、当初の計画を早め、2020年度に細胞死のメカニズムを探索し、ヒトiPS細胞を含む増殖性細胞はコレステロール生合成阻害剤の添加によって、細胞分裂と何らかの関係性をもって細胞が死に至ることを突き止めた。今後はコレステロール生合成阻害による細胞死誘導の詳細なメカニズムを探索するとともに、心筋以外のどのような組織・細胞で適用されるかを重点的に検証する。計画としては、移植を伴うiPS治療の臨床研究に既に承認が得られた組織・細胞(ドーパミン産生ニューロン・網膜・心筋・角膜など)をターゲットとする。特に網膜・角膜・心筋などは「シート」として作成された後に移植されることが想定されるため、ソーティングによる未分化・未成熟分化細胞の除去の必要がない本提案技術は極めて優位性が高いものと期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は計画通り、心筋細胞の分化誘導で示した当該コレステロール生合成阻害剤の「未分化iPS細胞の除去」ならびに「成熟分化細胞の純化」の効果を示すことに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度については、コレステロール生合成阻害剤によるさらに詳細な細胞死誘導のメカニズムを探る計画である。通常我々の培養条件においては、ヒトiPS細胞がコレステロール生合成阻害剤によって細胞死を示すようになるまでには、およそ2日間を要する。この過程において、オミックス解析を用いて代謝変化を重点的に分析し、細胞分裂と細胞死との関係をコレステロールの集積部位である「細胞膜」の構造変化に着目しながら解析する計画である。具体的にはヒトiPS細胞由来の未成熟・成熟分化細胞も含め、コレステロール生合成阻害剤が実際にコレステロール代謝や細胞膜状態、または細胞死へとつながるストレスシグナルにどのような影響を与えているのかを、阻害剤添加直後からの経時的なRNAシーケンスの解析ならびにメタボロームを用いた脂質・コレステロール代謝の比較解析を行う。また本申請課題にある「腫瘍形成リスク」の評価を行う上で、造腫瘍性の検討は特に必要性が高いと考えられることから、当該阻害剤で処理した成熟分化細胞(心筋や神経細胞)を免疫不全マウスに移植し、どのような期間・条件で細胞を阻害剤処理することが必要かを2022年度中に検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該研究計画にどうしても必要な物品である「フローサイトメトリー」の購入を計画しており、令和3年度に導入することとするが、分化成熟細胞への影響を検証する上で、同装置を用いた解析 は令和3年度以降も核心的に必要とされる。また当初計画よりも前倒しして細胞死誘導のメカニズムに迫れることで、本研究の目的である「再生医療に向けた腫瘍形成細胞の除去技術の確立」の達成について、早期に成熟分化細胞への影響などの問題点を洗い出し、令和3年度以降にこの問題点を十分に対処できる時間を設ける。
|