ヒトiPS細胞を用いた細胞治療を行う際、「残存する未分化細胞による腫瘍形成」が今なお大きな課題として残されている。最近我々はコレステロール生合成阻 害剤が、増殖過程にある未分化な多能性幹細胞のみならず、未成熟分化細胞のほぼ全てを死滅させることを見出した。より重要なことは増殖を止めた成熟分化細 胞(心筋細胞)の生存・機能には全く影響を与えなかった点にある。本研究提案はコレステロール生合成系の代謝に着目し、iPS細胞を用いた移植医療を行う上でもっとも大きな課題である「腫瘍化の恐れのある未分化細胞を除去」ならびに「成熟分化細胞」を精製/純化するための基盤技術の確立を目指すものである。2022年度はこれまでの心筋細胞の分化誘導時に加え、移植を伴うiPS治療の臨床研究に既に承認が得られた組織・細胞(ドーパミン産生ニューロン・網膜・心筋・角膜など)の中から、ドーパミン作動性ニューロンをターゲットして、その分化誘導時のコレステロール生合成阻害剤の効果について検証した。ヒトiPS細胞からドーパミン作動性ニューロンを分化誘導する際、一定期間に限ってコレステロール生合成阻害剤を添加することにより、ある特定の細胞集団に細胞死が誘導されたが、その集団が生じるプロセスを詳細に解析したところ、細胞分裂マーカーを有する細胞が特異的に除去されていることが判明した。さらに、未分化マーカーSSEA-4を発現するiPS由来細胞が特異的に減少している(細胞死を起こしている)ことが明らかとなった。今後はコレステロール生合成阻害剤による細胞死誘導のメカニズムを探るとともに、その細胞死がいかにして未分化細胞に特異的に生じるのかを明らかにしていく予定である。
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