研究課題/領域番号 |
20K06662
|
研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
渡邉 寛 沖縄科学技術大学院大学, 進化神経生物学ユニット, 准教授 (80356261)
|
研究分担者 |
早川 英介 沖縄科学技術大学院大学, 進化神経生物学ユニット, グループリーダー (20739809)
稲葉 一男 筑波大学, 生命環境系, 教授 (80221779)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 神経細胞の獲得 / ペプチド / ペプチド作動性神経 / 神経ペプチド発現 |
研究実績の概要 |
神経細胞の獲得は動物の進化における大きなイベントの一つであるが、神経細胞が進化の初期にどのようなプロセスで獲得されたのかは不明である。申請者らは独自の手法による高感度ニューロペプチドミクスを進めてきた結果、最も初期に分岐した動物系統などから神経特異的に発現するペプチドを多数同定し、ペプチド作動性神経系が予想外の古い進化的起源を有することを見出した。これらのペプチドに対する抗体を作成し、クラゲムシやカブトクラゲ幼生に対して免疫染色を行った結果、これらが神経ペプチドであることを確認した。そこで次に、ゲノムが公開されているクシクラゲの近縁種であるMnemiopsisのホモログを特定し、さらにその単一細胞トランスクリプトームのデータを用いて、これらの神経ペプチド遺伝子を発現している細胞を特定した。その結果、従来では未同定とされた細胞クラスターがペプチド作動性神経細胞であることも見出した。このことは、最も祖先的な神経系はペプチド性神経細胞によって後生されていた可能性を強く示唆する。さらにこのペプチド性神経細胞クラスターの遺伝学的特性を明らかにし、高等動物のそれと比較する作業を通して、クシクラゲと他の動物のペプチド作動性神経細胞における共通の遺伝子シグネチャーを明らかにした。以上の知見により、クシクラゲの神経系は独立に進化したものではなく、すべての後生動物の神経系は同一の進化的起源に由来することが示された。この研究は最近Nature Ecology & Evolution誌に受理された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クシクラゲのモデルとして、研究室での維持が比較的容易なカブトクラゲやクラゲムシを用いたことにより、実験が着実に進行した。また特異的な神経ペプチド抗体の作成やペプチドの機能解析実験にも成功したことや、機械学習によるペプチド受容体予想(サントリー生命科学財団・佐竹炎博士、白石慧との共同研究)も順調に進んだ。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの解析によって、ペプチド性神経細胞が最も原始的な神経細胞として機能し始めた可能性が見えてきた。以上の研究は、ペプチド神経細胞の遺伝子シグネチャーの共通性から、ペプチド神経細胞の相同性を検証するのが中心であった。この点については順当に研究が進んだが、ここで得られた新知見から、さらに重要な未解決問題が見えてきた。それらの一つが、神経ペプチドがどのように機能しているかという点である。クシクラゲの神経系では、神経ペプチドを発現する細胞全てが神経突起を伸展さているわけでもない。また神経突起においても、ペプチドを含有するdense core vesicle(DCV)は突起全体に分散している。シナプス構成タンパク質遺伝子には神経で発現していないものが多いことも併せて考えると、クシクラゲではシナプスの発達が未熟である可能性が高く、volume transmissionが主要な役割を担っていると考えられる。この場合、各ペプチドに特異的な機能の発揮には、受容体の発現パターンが重要である可能性が考えられる。現在までに予想されたペプチド受容体候補について、今後は実験的にペプチド-受容体ペアを検証していくと同時に、それら受容体について発現・機能解析を進める予定である。これにより、「シナプス以前」の神経系における主要な作用機序が明らかになると同時に、最初の神経系が何を制御するために生じたのか、という根本的な疑問に対して重要な知見がもたらされると期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
カブトクラゲの飼育を継続して行うために必要な飼料と人工海水の購入の他、データ解析に使用する試薬の購入を予定している。 また、これまでに得られた成果報告のための国内学会への参加、論文投稿に際し必要なオープンアクセス費などを次年度で予定している。
|