研究課題
哺乳類大脳皮質形成過程では、脳室帯で誕生した興奮性ニューロンは脳表層に向けて移動し、辺縁帯に到達すると移動を停止する。それにより後続のニューロンが停止したニューロンを追い越して最表層に到達し、より遅い時期に産生されたニューロンがより表層に配置する。この配置パターンは進化過程において獲得され、その結果霊長類型の多種サブタイプを持つニューロンを含む大脳皮質層構造を実現したと考えられる。ニューロン移動停止はその実現に貢献する重要なステップであるが、その制御機構には不明な点が多く残されている。これまでにリーリン受容体VLDLRのKOマウスにおいてニューロン移動停止が損なわれることを報告した(Hirota et al., Development, 2020)。このことはリーリンシグナルがニューロン移動停止を介して層形成を制御することを示している。しかしながらVLDLR KOマウスで辺縁帯に進入する細胞は全体の5%以内と少数に留まったことから、ニューロン移動停止は従来的なリーリンシグナル以外の未知のシグナルによっても制御されると推定された。この推定に基づき、辺縁帯直下でのニューロン移動停止を制御する分子の候補として辺縁帯に豊富に存在するニューロン反発因子に着目し、in vitroで検討を行い2つの新規知見を見出した。第一にFLRT2によるニューロン反発作用にApoER2が関与することを見出した。この結果はリーリンシグナルが現在まで別個に考えられているFLRT2シグナル経路とクロストークしてニューロン移動停止を制御する可能性を示唆する。また第二に、CSPGが辺縁帯直下に到達する時期のニューロンに反発作用を示し、その作用がコンドロイチン硫酸鎖を分解すると減弱することを新規に見出した。この結果はCSPGが辺縁帯内へのニューロンの進入を阻止するという新規の機能を有することを示唆する。
1: 当初の計画以上に進展している
FLRT2によるニューロン反発作用にApoER2が関与するという新規知見を見出したことから、この作用機序が明らかとなればなぜリーリンが豊富に存在する辺縁帯直下で、移動してきたニューロンがApoER2と VLDLRを発現した状態で、リーリンによる移動促進を終えて細胞体を辺縁帯直下で停止させるのかを説明することが可能と期待できる。また、CSPGの反発作用がコンドロイチン硫酸鎖に依存することが明らかになったことから、コンドロイチン硫酸鎖に依存して結合するCSPG受容体が移動ニューロンにおいて機能すると考えられるため、今後受容体の解析によりその作用機序が明らかにできると期待できる。
(1) FLRT2-リーリン受容体間の結合の意義・ApoER2を介したFLRT2の作用機序を明らかにするために、両者の結合を生化学手法により調べる。結合が認められれば結合部位を同定し、結合部位を欠損させたApoER2がドモイナントネガティブ型として働くと想定して生体内へ導入し、ニューロン移動に与える効果を調べる。また、ニューロン初代培養系で、全長ApoER2および上記変異体をApoer2欠損ニューロンに発現させ、FLRTに対する反発応答が回復するかを検討する。さらに、FLRT2の終脳特異的コンディショナルKOマウスで辺縁帯への進入・ニューロン形態を調べる。(2) CSPGによるニューロン移動停止の制御機構コンドロイチン硫酸鎖(CS)分解酵素を胎生脳に発現させておき、辺縁帯付近に到達したニューロンの分布に影響を与えるかを評価する。また、CS鎖に結合するCSPG受容体のうち辺縁帯直下に発現するものを候補とし、これらの関与を初代培養により検討する。
初代培養を用いた実験により、FLRT2によるニューロン反発作用にApoER2が関与するという新規知見を見出したため、FLRT2の作用が最も強く見られる濃度を調べる実験を新たに行っている。マウスの交配計画上、翌年度に多くのApoER2 KOマウスを使用しての実験が可能となるため、翌年度にFLRT2リコンビナントタンパク質等のニューロン初代培養実験に必要な試薬を購入し実験を行う予定とした。
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