研究課題
・左右非対称な器官形成を制御する細胞外環境の解析:細胞外マトリックス因子LR1は、弾性繊維の構成成分としてはたらくと報告されている。LR1の胚発生における役割を解明するために、LR1が左右非対称に発現する8日胚における弾性繊維の観察を試みた。その結果、弾性繊維の主要構成成分の一つであるフィブリリンは、LR1が左右非対称に発現している側板中胚葉には存在せず、LR1の新規の役割が示唆された。・腎臓と腎動静脈の左右非対称性の決定機構:生体で左右非対称に位置する腎臓と腎動静脈は、胚発生においてはじめは左右対称にできる。これらが左右非対称に変化する発生時期を調べ、腎動脈が腎臓や腎静脈よりも早期に変化することを発見した。続いて、腎動脈がいつから左右非対称に形成されるのか、その過程を詳細に観察した。その結果、腎動脈は胎生11.75日目ではまだ形成されておらず、その後胎生12.0日目までに形成され、腎動脈の左右非対称性は胎生12.5日~12.75日目に確立することが分かった。胎生12.25日目では、腎動脈の左右非対称性は非常に小さく、個体によっては腎動脈が左右対称に位置していた。腎動脈の形成過程の形態には個体差があるが、複数のマウス系統で同時期に左右非対称性が確立することを明らかにした。・肺、肝臓、腎臓の機能的左右差の探索:肝臓の左右2葉ずつを選び、遊離アミノ酸の定量解析を行った。分葉間に差が見られたアミノ酸もあったので、個体数を増やして解析を続けている。
3: やや遅れている
新型コロナの感染対策をしながらの研究で、研究開始から数ヶ月は実験を行うことがあまりできなかった。本格的に研究を開始できたのは9月後半からで、ほぼ半年間分の遅れが出た。
新型コロナの感染対策のため予定から半年間の遅れが出ている。今後も新型コロナの感染対策は必要で遅れを取り戻すことは難しいが、できる限りの実験をして、一つ一つ着実に研究結果を出していって、研究を推進させたい。①Pitx2とリプレッサーFam60aの下流の分子機構については、ChIPシークエンスを行ってPitx2が結合する遺伝子を抽出する。②左右非対称な器官形成を制御する細胞外環境の解析については、LR1発現領域の細胞形態や細胞移動の観察、LR1変異マウスにおける組織・細胞レベルでの異常を解析する。③腎臓と腎動静脈の左右非対称性の決定機構の解析については、細胞レベルでの左右の形態や分子の違いを調べる。さらに、左右対称から非対称に形態が変化する時期の組織を左右別々に切り出して、mRNA シーケンス解析を行う。また、様々な左右軸変異マウスの腎動脈の左右非対称な形成過程を調べる。④肺、肝臓、腎臓の機能的左右差の探索については、アミノ酸の定量解析を進めると共に、mRNAシーケンス解析、器官特異的な酵素等の生化学的定量解析を行う。
(理由) 新型コロナの感染対策をしながらの研究で、研究開始から数ヶ月は実験を行うことがあまりできなかった。本格的に研究を開始できたのは9月後半からで、ほぼ半年間分の遅れが出た。遅れを取り戻そうと研究を進めたので、当該年度予算の約1割程度が次年度使用額となった。(使用計画) 当該年度に行うことができなかった次世代シークエンサー解析を行うための試薬等に使用する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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