研究課題
扁形動物プラナリアは、ほとんど全ての身体の断片から、新たな個体を再生できる。日本産プラナリアのナミウズムシ(Dugesia japonica)は1991年にクローン系統が作出され、以来、30年を超えて研究室内で個体再生を利用した無性生殖のみで増殖、維持されている。多くの研究から、プラナリアの再生能力は全身の間充織に広く分布している未分化な体性の全能性幹細胞である新生細胞の分化を自在に制御することで成し遂げられていることがわかっている。一方で、どのようにして新生細胞の全能性を維持しているか、についての報告はあまりなく、特に長年にわたり全能性幹細胞を維持し続ける分子機構については、ほとんど未知である。マウスで上皮・間葉転換に関係することが知られているMTAのプラナリア相同遺伝子、MTA-A、Bをそれぞれ機能阻害すると、どちらも間充織で新生細胞が枝状に連なるように局在が変化し、このような個体は再生不全を示す。これは枝状に連なった新生細胞では未分化性が強制されている状態であると考えられ、この機構が全能性幹細胞を長期間維持するために使われているのではないかと期待された。MTA機能阻害個体では、前記の表現形に加え、ギャップ結合に使われるイネキシン遺伝子(inx-B)の発現も上昇する。そこで研究期間内にギャップ結合、新生細胞の局在変化と再生の関係を明らかにすることにした。昨年度までに、プラナリアMTA相同遺伝子のうち、MTA-Aの再生不全が、inx-Bの機能阻害を同時に行うことで回復することを見出した。今年度は、この再生能が回復した個体において新生細胞の局在を確認したところ、通常と同様であること、さらにMTA-Bの表現形はinx-Bの機能阻害では回復せず、局在も元に戻らなかった。これらのことから、新生細胞の維持に関係する局在変化には複数の分子機構があることが示唆された。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
Development
巻: 149 ページ: 1-13
10.1242/dev.199449
Development, Growth & Differentiation
巻: 64 ページ: 150~162
10.1111/dgd.12773