研究課題/領域番号 |
20K06680
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
竹澤 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20281834)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アブシシン酸 / RAFキナーゼ / 受容体 / プロテインホスファターゼ |
研究実績の概要 |
植物は土壌の水ストレスや組織の水ポテンシャル低下(高浸透圧)に応答してABAを合成し、LEAタンパク質など保護的に働くタンパク質を蓄積して細胞の傷害を防いでいる。このような環境応答の仕組みは陸上植物の起源に近いとされるコケ植物にも保存され、陸上植物に普遍的な仕組みであると考えられる。これまでにコケ植物において、ABA応答の活性化因子SnRK2やABA受容体PYL、ABAの負の制御因子であるPP2C-Aの完全欠損株の作出に成功し、高効率で変異株を単離できる手法により新たな変異株を単離した。また、Raf様キナーゼARKがSnRK2の活性化に関わる上流因子であることを報告し、ARKがSnRK2に対しどのように作用するか、どの様な経路を介してストレスを活性化しているかなど、研究を進めている。本年度は、二重欠損株や新たな変異株においてARKの動態を解析するとともに、相互作用因子の解析や新たな変異株のゲノム解析から、ARK制御の分子機構と、ARKを介した植物ストレス応答の調節機構の解明に向けて研究を進めた。 作成したPP2C-AとARKの二重欠損株の解析では、この株がARK単独の変異株と同様に強いABA非感受性を示すことを明らかにし、PP2C-Aが作用するよりも先にARKによるSnRK2の活性化をすることがABA応答に必須であることを明らかにした。PP2C-AとPYLをともに欠損する変異株がPP2C-Aと同様にABA高感受性を示したことからも、ARKがSnRK2活性化に関わる主要因子であることが示された。一方で、ARKの抗リン酸化抗体を用いた解析からは、ABA非感受性であるPYLの欠損株とPP2C-Aの過剰発現株の解析において、ARKが常に活性化していることが明らかとなった。このことからPYLやPP2C-Aに依存しないARKの制御機構の存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に記載した以外に、PYLとPP2C-Aの二重変異株の解析も行っている。これまで両者の完全欠損体についての報告はなく、本研究によりABA応答に関する新たな知見が得られることが期待される。加えて、ARKリン酸化部位の同定、ABA応答に関わる新たな因子の探索、ABA非感受性株の全ゲノム解析、休眠応答の解析、糖応答の解析、ARKスプライシングバリアントの低温応答、ARK相互作用因子の解析についても新たな進展があった。とくに、ABA非感受性株の解析からは、これまで報告がない新たな遺伝子座を同定することができた。これら結果の一部については論文を出版することができた。
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今後の研究の推進方策 |
二重変異株については遺伝子発現の解析、タンパク質の解析、凍結、乾燥耐性など、生理学的な解析を進める。さらに、新たに同定したABA応答に関わる転写因子についての解析を進める。ゲノム編集株および過剰発現株の作出と遺伝子発現解析、一過的発現系を用いたプロモータ解析、酵母Two-HybridおよびスプリットYFPによる他の転写因子、情報伝達因子との相互作用解析について進める。変異株の全ゲノム解析から同定した遺伝子候補については、すでにゲノム編集株の作出を進めている。これら株のABA応答解析、高浸透圧応答および低温応答についても調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国出版社からの請求額が年度末ギリギリまで確定しなかったため。
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