研究課題/領域番号 |
20K06683
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
粟井 光一郎 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (80431732)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | チラコイド膜 / プロトン駆動力 / 膜脂質 / シアノバクテリア / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
本研究では、ミトコンドリアと異なり、主に化学ポテンシャル差(プロトン濃度差:ΔpH)に起因するチラコイド膜のプロトン駆動と、チラコイド膜に特徴的な膜脂質組成の関係を明らかにすることを目的とする。そのために、チラコイド膜の脂質組成を操作しやすいシアノバクテリアでチラコイド膜脂質を欠く遺伝子破壊株や,チラコイド膜に存在しない脂質をもつシアノバクテリアを作製し、チラコイド膜の化学ポテンシャル差と電気ポテンシャル差(Δψ)を測定することを計画した。 初年度から取り組んでいたシアノバクテリアでのチラコイド膜のプロトン駆動力測定がある程度はできるようになったが、シアノバクテリアがLHCPではなく主にフィコビリソームで集光することから測定時のノイズが高く、厳密な測定は難しいと判断した。そこで、新たにモデル植物であるシロイヌナズナのチラコイド膜脂質合成酵素遺伝子変異体を取り寄せ、プロトン駆動力測定を行っている。植物では致死性などの問題から、各脂質の完全欠失株を取りそろえることは難しいが、可能な範囲で解析できる膜脂質欠損、もしくは含量が低下した変異株を用いて計測を行い、各脂質のプロトン駆動における役割を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度購入したプロトン駆動力(ΔψとΔpH)を測定するための測定ユニット(P515/535 emitter-detector)を用い、測定系の確立を試みた。メーカー(Walt)への問い合わせを繰り返し、測定方法の改善を行うことで、ノイズがかなり高いものの、ある程度の測定ができるようにはなった。しかし、植物での測定でみられるようなはっきりとした結果を得ることはできなかった。 過去の文献では、シアノバクテリアでのプロトン駆動力測定も報告されている。しかし、シアノバクテリアがLHCPではなくフィコビリソームを集光装置に利用していることから、測定の精度をこれ以上改善することは難しいと考えられた。これは、プロトン駆動力測定の際、LHCP内のカロテノイドの電場による吸光度変化を用いてΔψとΔpHを測定するためである。そこで、シアノバクテリアでの測定を一旦保留し、植物体を用いた測定に切り替えることにした。モデル植物であるシロイヌナズナではプロトン駆動力の測定方法は確立しており、またチラコイド膜脂質の変異株も多く存在することから、シロイヌナズナを用いることとした。 入手した株、もしくは以前より保持していた株を用いて測定を行ったところ、チラコイド膜の主要糖脂質であるジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)の含量が著しく低下した株であるdgd1変異株ではΔpHの減少がみられ、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)の合成阻害変異株mgd1-1変異株ではΔψとΔpHの減少がみられた。このことから、DGDGがΔpHの維持に重要である可能性が出てきた。これまで、チラコイド膜脂質とΔpHの維持の関係を示した方向はなく、新しい発見であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナやその脂質合成酵素遺伝子変異株でのプロトン駆動力測定を進める。そのために、他の脂質合成酵素遺伝子変異株も入手し、解析を行う。そのうえで、各膜脂質の化学ポテンシャル差維持機構における役割を明らかにする。また、単離チラコイド膜や、チラコイド膜に存在しない脂質を添加した時の影響を調べるため、シロイヌナズナからチラコイド膜の部分精製を行い、脂質添加実験の準備を進める。同時に、蛍光試薬を取り込ませ人工リポソームを用いたΔpH測定系を確立する。この方法を用いることで、作成する人工リポソームの脂質組成を変え、ΔpHにおけるチラコイド膜脂質の役割、特にDGDGの役割を明らかにすることが可能となる。
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