研究課題/領域番号 |
20K06684
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 繁 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (40108634)
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研究分担者 |
木村 明洋 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (20345846)
井原 邦夫 名古屋大学, 遺伝子実験施設, 准教授 (90223297)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光合成 / 近赤外光 / 光化学系Ⅰ反応中心 / 光エネルギー利用 / 励起エネルギー移動理論 / クロロフィル / 進化 / 理論モデル |
研究実績の概要 |
可視光を使う植物の酸素発生型光合成はよく研究されてきたが、より低エネルギーの近赤外光を使う光合成については理解が遅れている。植物とシアノバクテリアの酸素発生光合成では、クルロフィルa (Chl a)の吸収する400-700nmの可視光を使い、光合成細菌の非酸素発生型光合成では(バクテリオクロロフィル(BChl )が吸収する380-900nmの近赤外(FR)光を使う。この間の光を使う酸素発生光合成系「FR-O2型光合成」を我々は1998年に報告した。最近似た系が多数みつかった。この「FR-O2型光合成」は、海中、土壌表層、生物堆積下層など可視光が少ない環境中で営まれる新型光合成系である。 本研究では、Chlaの代わりに740nm光を利用できるChldをもつシアノバクテリア種・アカリオクロリスの光化学系中心(PSⅠ)の、長く未解明であった構造を、低温電子線回折で明らかにした。この反応中心は’98年に我々が初めて精製し、反応中心Chl d-2量体をP740と命名した。この反応中心構造をを使いさらに理論解析をすすめた。これと別のChlfとChlaを使いFR-O2光合成をする反応中心でも検討を進めた。また、Chlf型10種 、Chl d型アカリオ属7株、red-Chl a型南極コケ1種の光反応を調べた。 FR-O2光合成以外に、シアノPSI(96Chl aをもつ)と似た構造で BChl-gをもつヘリオバクテリアのI型反応中心の理論解析を行った。色素間相互作用の量子理論モデルを構築し、超高速エネルギー移動過程を計算機上で再現した。さらに、これらでクロロフィルを相互に置き換えた仮想実験系をin silicoで作り、機能比較と、進化的考察を行い、FR-O2光合成系と比較した。人工光合成系開発への利用も検討している。関連論文発表4編、学会発表6件を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型のクロロフィル(Chl d)を持つシアノバクテリア・アカリオクロリス種の光化学系I反応中心複合体の分子構造決定を行った。同系統でより原始的で類似した構造をもつ、ヘリオバクテリアのI型反応中心上のクロロフィル集団上での励起エネルギー移動の理論解析をおこなった。さらにBChl aを持ち、数も異なる、より原始的な緑色硫黄細菌のI型反応中心の理論解析を進めている。この系については遺伝子操作で色素を一部取り除いた際の効果の分光実験を終えており、2021年末に解明された構造にもとづく理論解析と合わせて検討中である。我々が構造決定したアカリオクロリスPSI上での色素配置、色素とタンパク質の間相互作用の理論解析を行っている。この他のFar-red光合成系についても検討をすすめている。
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今後の研究の推進方策 |
far-red光合成系の特製,分子機構の理解のために、理論家との共同研究を精力的に進める。Chl dを持つアカリオクロリスのPSI、ChlfをChl aに合わせてもつシアノバクテリアPSI, 反応中心以外のChl a会合体を結合してFR光を吸収するPSI、を対象に研究を進める。クロロフィル分子の相互配置・相互作用により生じる励起子状態群のシミュレーション計算と、個別クロロフィルの結合部位毎にタンパク質環境が作り出す部位エネルギー値の理論計算をPSI及び、2018年に構造解明されたヘリオバクテリアのI型反応中心(BChl gをもつ)で進めつつある。これを発展させ、光合成反応中心上で,色素の種類、配置を変える際の光捕集やエネルギー移動への影響を計算機モデル上で理論評価する。さらにより原始的で,2021年に構造決定された緑色硫黄細菌反応中心での検討を行う。量子論で、環境応答や、進化にともなう反応中心複合体の構造と特性の変化を予測し、光合成の進化、適応への理解を進めたい。生物現象の中でも、物理過程・原理から研究しやすい光合成系は、進化や適応の検討に適したモデルであり、新しい展開を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ流行による長期の大学閉鎖により、在宅研究とon lineゼミによる研究協力という形での研究遂行をよぎなくされた。このため研究計画のうち実験研究が大幅に阻害され、国内外の学会・研究会なども全て中止やon line開催となったことにより、研究費の使用額の減少、延期が生じた。一方研究室借用料などは、これに関係なく支払いが生じた。 今後の研究費の使用計画としては、遅れた研究計画を促進する事に研究費を使用する。幸い状況は改善されているので、(1)当初より計上していた実験用消耗品費、(2)長期不使用により不具合が生じたレーザ実験装置の修理・取り替え費、(3)国内外学会への参加費、(4)在宅研究の長期化により進捗した論文執筆関連の経費・論文掲載料、(5)計算機使用料金 などを予定している。新規設備の購入は最小限にする予定である。
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