イチイ科植物のタキサジエン系の化合物には、抗がん薬として利用されるパクリタキセルのほか、その生合成中間体を含む多様な化合物が含まれる。パクリタキセルは現在、イチイ樹木から得たこれら中間体化合物の有機合成で製造されている。天然におけるこれら化合物の生合成の仕組みに関する未同定部分は、合成生物学による代替的生産技術開発の主な障壁となっている。本研究ではイチイ科植物のタキサジエン系化合物の代謝系遺伝子を同定することを目的とした。前年度までにイチイのゲノム情報の解読やタキサジエン系化合物のメタボローム分析手法の開発などを実施した。最終年度にはこれらを利用して新規酵素遺伝子の単離と活性の評価を行ったところ、新規な活性を持つ遺伝子が同定された。また、膜輸送体遺伝子との共発現を含めた代謝システムの最適化により、培養液に投入できる最大量に近い基質濃度での変換反応が可能であることがわかった。これらのことは、本研究手法が代謝系に関わる遺伝子の同定に有効であることを示している。また、酵母での高濃度反応が可能であったことは、合成生物学的なパクリタキセルの生産技術の開発につながる成果であると考えられる。本研究の成果は論文として公開される予定であり、塩基配列データなどの情報は公共データベースを通じて公開する準備を進めている。このほかトランスクリプトーム、メタボロームデータの解析ツール群については既にGitHub等で公開しており、学会等での広報活動を実施した。
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