研究課題
水分欠乏は世界の植物生産性を律速する最大環境要因であり、地球上の植物種の大部分を占める中生植物は、乾燥ストレスへの暴露により組織成長が顕著に抑制される。水分欠乏下の植物は、高温・過剰照射光・過酸化など複合的な物理化学的ストレスを受けやすい。一方、アフリカ・カラハリ砂漠に自生する野生種スイカは、乾燥ストレス下で根の伸長を顕著に促進させ、深層土壌から水分獲得することで水分欠乏下での成長を維持する。この植物の比較トランスクリプトーム解析により見出された転写調節因子のCLCOL1遺伝子は、乾燥ストレス下での根端細胞の分裂を活性化し根系発達を促進させることが、毛状根スイカにおける遺伝子発現の抑制実験により示唆された。また、根系成長の栄養源となる有機窒素は、非タンパク質性アミノ酸であるシトルリンが窒素担体として地上部から転流されることで供給され、この窒素代謝には根系でのグローバルな転写調節が関与すること、そしてCLCOL1がその転写調節に関与することが示唆された。さらに、シトルリン類縁化合物の投与実験から、スイカの地上部では地下部の窒素栄養の要求量増大を反映してシトルリンの生合成が活性化されること、またこの活性化には地下部のみならず地上部の転写調節が大きく関与することが示唆された。さらに、野生種コムギやプロソピスなど、いくつかの乾燥耐性植物においても、上述の分子生理応答と類似した挙動が見られることを見出した。これらの結果は、乾燥耐性植物の乾燥ストレス耐性を担う根系成長が、その一次代謝および組織間連絡と密接に関連していることを示し、またこの機構に転写調節因子の進化が関与することを示唆するものであり、学術的な新奇性が高く興味深い。
2: おおむね順調に進展している
野生種スイカにおける根系発達分子機構と転写制御の役割、さらに一次代謝制御との関係について、論文発表に資する一連のデータを取得することができた。また、野生種コムギやプロソピスなど他の乾燥耐性植物でも、乾燥下における根系発達と転写制御に関する類似の分子生理挙動が観察され、本発見の普遍性について新奇データが得られ、概ね順調に進展していると判断される。
野生種スイカに関する一連の研究成果について論文執筆を進める予定である。また、他の乾燥耐性植物における挙動についても一連のデータ取得を行い、論文化を進める予定である。さらに、本発見を利用した育種利用について、proof-of-concept的な実験を進めることで、次の学術的発展に繋げる研究を進めたい。
2021年度についてもコロナウイルス流行に伴い国内・海外出張に制限が生じた。次年度は、この制約がほぼ無くなると見込まれるので、学会参加・旅費の支出等に充てるため当該予算を次年度へと移行させた。また、新奇に見出された他の乾燥耐性植物の乾燥下における根系発達と転写制御及び類似性に関するデータをさらに取得するため、これら研究の進展に必要な消耗品等購入に充てるため次年度使用が生じることとなった。
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Agriculture
巻: 23 ページ: 2842
10.3390/ijms23052842