研究課題/領域番号 |
20K06691
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小林 康一 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40587945)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 葉緑体 / 脂質 / 植物 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
光合成の電子伝達やATP合成はチラコイド膜において行われる。膜の基盤を作る脂質分子はチラコイド膜の形成や動態、機能に極めて重要であるが、多種多様な脂質分子がそれぞれ担う役割は明らかでない。本研究では、植物の葉緑体で合成される脂質や脂肪酸分子種の違いが、葉緑体前駆体の発達やそこからの葉緑体への分化過程にどのような影響を及ぼすのかを、シロイヌナズナの多種多様な脂質合成変異体の解析により明らかにすることを目的とする。前年度は、SQDG合成を完全に欠失したsqd1変異体と、SQDGに加え別の酸性糖脂質であるGlcADG合成も欠いたsqd2変異体、PG合成を部分的に欠損したpgp1-1変異体、葉緑体PG合成を完全に欠損したpgp1-2変異体、およびこれらの二重変異体の解析を行い、sqd1 pgp1-2やsqd2 pgp1-2変異体では植物体の発達は胚発達段階から強く阻害されることや、sqd1 pgp1-2とsqd2 pgp1-2およびsqd1 pgp1-1とsqd2 pgp1-1との間では調べた範囲では表現型に違いが見られないことを明らかにした。このことから、PGは生育に必須だがSQDGにより一部相補されること、GlcADGはPGの相補に働かないことを明らかにした。本年度は暗所で発芽した黄化芽生えの発達段階において解析を進め、PGの部分的欠損が黄化芽生えでのエチオプラストの発達やクロロフィルの前駆体の合成に強い影響を与えること、SQDGはPGの相補だけでなく、タンパク質-色素複合体の振る舞いに関してPGとは異なる役割を担うことを新たに明らかにした。また、PGとSQDGの機能分担と相補性における研究をさらに深めるために、SQDG合成に関わる遺伝子の発現を変化させる形質転換体の作成とスクリーニングを行い、複数のコンストラクトについて複数の形質転換体を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、SQDG合成とPG合成の変異体に着目した解析を黄化芽生において進め、PG合成が葉緑体の前駆体であるエチオプラストでの光合成色素合成やプロラメラボディの発達、タンパク質-色素複合体の構造変化に極めて重要な役割を担うこと、SQDGはそれに対し相補的に、また一部については独自の機能に果たすことを明らかにすることができた。また、SQDG合成に関わる遺伝子の形質転換体の作成とスクリーニングを行い、複数のコンストラクトについて複数の形質転換体を得た。これらの成果は、当初に想定していた以上の成果と言える。一方で、ガラクト脂質の合成変異体との二重変異体の作成に関しては種子の発芽率が低下してしまうなど依然として困難が生じており、さらなる条件検討が必要な状況である。
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今後の研究の推進方策 |
SQDG合成とPG合成の変異体に関しては、黄化芽生えにおける葉緑体前駆体のエチオプラストの発達過程の解析結果をまとめ、論文として報告する。また、次の課題として、黄化芽生えの緑化時における葉緑体形成過程の解析を進める予定である。それらに加え、SQDG合成に関わる遺伝子の形質転換体の作成とスクリーニングにより複数の形質転換体を得ることができたため、それらを用いた解析を行っていく。ガラクト脂質の合成変異体との変異体作成に関しては、特にDGDG合成欠損変異体において生育の遅滞が目立つため、光環境や栄養条件などについての最適な生育条件を探し、またそれでもうまくいかない場合は、ヘテロ接合体を用いた解析も検討する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
ガラクト脂質合成変異体と酸性脂質合成変異体との二重変異株の作成が順調に進まなかったことから、それらを用いた解析を行うことができなかったため、物品費の次年度使用額が生じた。そこで植物の生育環境の最適化、もしくはヘテロ接合体を用いた解析に移行するなどでその状況を克服し、生化学的な解析や遺伝子発現解析に使用する予定である。また、旅費に関しては、新型コロナ感染症の影響により、発表会のオンライン化や出張の自粛要請が行われたため、未消化となった。今年度は状況に応じて学会に参加し、情報収集や成果の発表を積極的に行う。加えて今年度は、成果を論文の形に報告する予定なので、その論文発表のための費用に使用する。
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