研究課題/領域番号 |
20K06696
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
笹部 美知子 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (00454380)
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研究分担者 |
町田 泰則 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (80175596)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞分裂 / 微小管 / 紡錘体 / フラグモプラスト / キネシン / 微小管結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
植物の細胞分裂は、前期前微小管束(Pre-prophase band; PPB)や中心体を持たない中期紡錘体、そして細胞質分裂装置である隔膜形成体(フラグモプラスト)と呼ばれる植物細胞に特異的な微小管構造体を介して実行される。これまでの研究から、シロイヌナズナにおいて、機能未知の多数のメンバーからなるキネシン14ファミリー (Kin14) に属する特定のメンバーが、分裂期の様々な微小管構造体に局在し、分裂の過程でこれら構造体の動態制御に関与している可能性が明らかになっている。昨年度までに、推定機能ドメインのアミノ酸に変異を入れたコンストラクトの過剰発現により中期紡錘体及びフラグモプラストの形状が異常となることが明らかとなっていた。本年度は、それぞれの微小管構造体に対する分子機能を明らかにするために、野生型Kin14及び、変異型Kin14の過剰発現の影響を微小管マーカー発現下で解析し、微小管の様子をライブイメージングにより解析した結果、中期から細胞質分裂期にかけて中期紡錘体及びフラグモプラストの位置が維持できず分裂の進行につれて不規則に回転し、細胞の端に偏ってしまうといった異常が観察された。一方で、フラグモプラストは、形成位置を維持や拡大方向の異常のみならず、微小管構造体の崩壊も高頻度で起こっていることが分かった。この結果は、昨年度までに示唆されていた本タンパク質が分裂期の段階に応じて特異的な機能を持つ可能性を支持している。さらに、免疫沈殿法により精製したKin14の相互作用因子について、質量分析による解析を進め、本キネシンの相互作用因子の候補を3つ同定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Kin14の微小管構造体に対する細胞生物学的な性質を解析し、本因子が中期紡錘体とフラグモプラストの位置制御と特定の微小管構造体そのものの維持を介して分裂方向の制御や細胞質分裂の制御に関与していることが明らかとなった。また、本年度は、本因子の相互作用因子の同定に成功した。相互作用因子の解析では、生体内における相互作用因子を高解像に解析可能な近接依存性標識法による解析も同時に進めているが、本年度は培養細胞及び、植物個体の形質転換体を確立することができた。今後は、免疫沈殿法で同定したタンパク質との関係を中心に機能解析を行うと同時に、近接依存性標識法を進めることにより、本因子の分裂期特異的な機能をそれぞれ明らかにしていきたいと考えている。このように、研究はおおむね当初の計画通りにおおむね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
免疫沈殿法により同定した相互作用因子の候補因子について、Kin14との相互作用の有無を確認した上で、個々の因子の細胞内での局在や、個体における発現時期は発現組織等の細胞生物学的性質を詳細に明らかにする。さらに、これら因子の生化学的な分子機能を明らかにすると同時に、Kin14との機能的関係及び細胞分裂における機能を多角的に解析する。遺伝学的な解析も進め、個体における機能解析も進める。また、本年度確立した形質転換体を用いて近接依存性標識法を実施し、生体内での相互作用因子の解析を行う予定である。これまでの解析から、Kin14は分裂期に依存した特異的な機能を有する多機能キネシンである可能性が示唆されている。この可能性を検証するために、Kin14の微小管に対する結合活性やモーター活性を試験管内で解析し、本因子の生化学的特性を明らかにし、それらの性質が分裂周期に依存した翻訳後修飾等により影響を受けるかどうかを解析する。これらの結果を総合的に分析して、分裂期を通じた微小管構造体の動態制御の分子メカニズムの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により多くの学会がオンラインとなり、さらに予定していた共同研究に伴う出張が中止となったため、旅費に差額が生じた。また外部委託を予定していたプロテオーム解析の条件検討に時間がかかり、本年度の実施に至らなかったため、その他に計上していた予算に差額が生じた。次年度に繰り越した金額は、学会参加及び共同研究に関わる旅費及び、プロテオーム解析のためのその他費用として使用する。
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