研究課題/領域番号 |
20K06697
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
愿山 郁 東北大学, 生命科学研究科, 特任研究員 (10346322)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ゼニゴケ / DNA損傷 / DNA修復 / X線 / DNA損傷応答 / ゲノム維持 |
研究実績の概要 |
今年度は、まずゼニゴケMpSOG-GUS形質転換体を用いて、MpSOG1が葉状体のメリステム領域で発現していることを示した。次に、ゼニゴケのX線照射に対する様々な応答機構にMpSOG1が関与しているのかどうかに注目した。最初にゼニゴケにX線を照射した後のDNA複製の状況をEdUの取り込みで調べた結果、X線照射後、1日目でメリステム領域でのDNA複製は抑制されていた。しかし、mpsog1変異体でも同様にDNA複製が抑制されていたため、そのDNA複製の抑制にはMpSOG1は関与していないことが明らかになった。ナズナではDNA損傷に応答したDNA複製の停止にはAtSOG1が関与していたので、DNA損傷に応答したDNA複製の停止のメカニズムはゼニゴケとナズナで異なっていることが明らかになった。 ナズナではDNA損傷に応答してAtSOG1が高リン酸化され、活性化することがわかっている。そこで、ゼニゴケMpSOG1-FLAG形質転換体をX線照射し、2時間後に葉状体からタンパク質を抽出して、FLAG抗体でMpSOG1のリン酸化を調べた。予想に反して、ゼニゴケではX線照射に応答したMpSOG1のリン酸化は認められなかった。 昨年度はRNA-seqを行い、ゼニゴケではDNA修復に関わる遺伝子群の制御の一部だけにMpSOG1が関与していることを示したが、今年度は、MpSOG1が活性酸素消去系の遺伝子群の制御に大きく関わっていることを明らかにした。 以上の結果から、植物が陸上化した時からゼニゴケはナズナAtSOG1とアミノ酸配列の似たMpSOG1を保持しているが、その主な働きは活性酸素の消去システムの活性化を担っていることが示唆された。加えてMpSOG1はDNA損傷応答にも一部関わっていたが、ナズナに至る進化の過程において、SOG1タンパク質はDNA損傷応答全般の制御に特化していったことが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ゼニゴケのMpSOG1タンパク質がDNA損傷に応答してリン酸化されるかどうかについて検討し、MpSOG1はナズナAtSOG1のようなリン酸化は生じないことを示した。これによりゼニゴケもナズナもSOG1タンパク質を保持しているが、その制御方法は異なっていることを示すことが出来た。ゼニゴケMpSOG1もDNA損傷が生じた際に3000以上の遺伝子制御に関与している。よってMpSOG1がリン酸化以外の方法でどのように活性化しているのかといった新たな疑問を提起することが出来た。またゼニゴケでもDNA損傷が生じた際に、メリステム領域でDNA複製が停止することを示したが、その停止にはMpSOG1は関与していないことを明らかにした。DNA損傷に応答したDNA複製の停止は、ゲノム維持のための重要なチェックポイント機構であるが、このような重要な応答反応にMpSOG1が関与していないことが示されたのは興味深く、ゼニゴケMpSOG1とナズナAtSOG1ではその役割が大きく異なることを示すことが出来た。加えてRNA-seq実験の再解析により、ゼニゴケとナズナにおけるDNA損傷応答機構の制御方法が大きく異なることを明らかにすることにより、陸上植物でのDNA損傷応答の変遷についての理解を深めることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
MpSOG1遺伝子をシロイヌナズナsog1欠損体に形質転換導入し、ナズナでのsog1欠損によるDNA損傷応答の欠損がMpSOG1の導入によって相補されるかどうかを調べることで、MpSOG1-likeがシロイヌナズナでも機能するのかどうかを明らかにする。これによりSOG1タンパク質の働きが種間で保存されているのかどうかを検討する。 DNA損傷が生じた際の応答反応として、ゼニゴケとナズナと大きく異なる点は、ゼニゴケでは再生能力が高いことである。これはDNA損傷応答がゼニゴケとナズナで異なる理由の一つかもしれない。そこで今年度は、DNA損傷を受けたゼニゴケがどのような遺伝子群を活性化させて再生スイッチをオンにしているかを明らかにする。 X線はDNAに一本鎖切断、または二本鎖切断を誘発するが、今年度は、DNAを架橋する紫外線処理、DNA塩基を修飾する活性酸素を発生させる強光ストレス、温度変化ストレス、乾燥ストレスなどを処理して、それに対する応答反応が野生型とmpsog1変異体で異なるかどうかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加した学会の1つの開催場所が東北大だったため、その分の旅費の支出が抑えられた。さらに、参加予定であった海外で開催される国際学会がオンラインになったため、その旅費の支出が無かった。また研究の進行が予定より押しており、3年目に予定していた論文執筆が達成されていないため、英文校閲料が発生していない。これらの費用は次年度の研究推進や学会参加のための費用、そして論文執筆に充てる予定である。
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