本年度はDNA損傷に応答したDNA複製の停止の有無を、X線照射後、2時間のポイントで確認した。野生型ゼニゴケにX線照射すると、2時間後にはEdUシグナルが弱っていたため、DNA複製が停止していることがわかった。一方mpsog1変異体では、EdUシグナルが弱くならず、DNA複製は進行し続けていることを示した。つまりゼニゴケにおいて、MpSOG1はDNA損傷に応答したDNA複製の停止に関与しており、これはシロイヌナズナSOG1と同様の働きであった。DNA損傷応答の上流で働くMpATMとMpATRリン酸化酵素の欠損体をCRSPR-Casシステムにより作製し、これらリン酸化酵素とMpSOG1のDNA損傷応答への関与を比較した。mpatm欠損体はX線照射に対してmpsog1変異体と同様の感受性を示し、mpatr欠損体はHUに対してmpsog1変異体よりも感受性を示した。つまりX線照射の際に生じるDNA二重鎖切断への応答にはMpATMとMpSOG1の関与が同程度であると言えた。 これまでに得られた結果も合わせて本課題では、植物が進化の過程でどのようにDNA損傷応答機構を変化させていたかを明らかにすることが出来た。植物は水中で生活している際にはATMやATRを介したDNA損傷応答機構を保持していたがその際にはSOG1に相当するものは無く、陸上に進出した際にNACタンパク質を獲得し、そのうちの一つがSOG1の原型として機能していたと考えられる。しかしその当時保持していたSOG1の原型となるタンパク質は、DNA損傷応答の一部だけを担っており、主には活性酸素消去系の制御を行っていた。植物は陸上で進化する際にNACタンパク質のコピー数を増やし、それに伴ってDNA損傷応答に特化したナズナSOG1が出現したと考えられた。
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