研究課題/領域番号 |
20K06701
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
和田 元 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60167202)
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研究分担者 |
神保 晴彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (50835965)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / Synechocystis PCC 6803 / 脂質 / 光合成 / 光阻害 / ホスファチジルグリセロール / モノガラクトシルジアシルグリセロール |
研究実績の概要 |
令和3年度に得られた成果は以下の通りである。 1. 光阻害におけるPGの代謝回転の役割 強光によって損傷を受けたPSIIの修復にPGの分解が必要であることを明らかにするために、 PGの分解に関わっているホスホリパーゼ遺伝子を破壊した変異株を用いて、PSII活性の失活と修復について解析した。変異株では強光によって失活したPSIIの修復が大きく阻害されることから、PGの分解がPSIIの修復に必要であることが明らかとなった。また、D1の合成はPGの分解によって影響を受けないものの、D1の分解がPGの分解の抑制によって阻害されることから、D1をスムーズに分解するためにはPGの分解が必要であることが明らかになった。 2. 光阻害におけるMGDGの代謝回転の役割 MGDGの分解に関わっているガラクトリパーゼ(Gla1)の遺伝子を破壊した変異株を用いて、光阻害におけるMGDGの代謝回転の役割を解析した。変異株ではPSIIの修復が阻害され、MGDGの分解もPSIIの修復に必要であることが明らかとなった。また、変異株ではPSIIの二量体が蓄積しており、野生株から精製したPSIIにGLa1を作用させると、二量体ではMGDGが分解されて単量体に解離することが観察された。さらに、Gla1の細胞内局在を調べたところ、Gla1はPSIIの二量体に結合していることが明らかになった。これらの結果から、Gla1は二量体においてMGDGを分解することでPSIIをモノマー化することが明らかになった。さらに、MGDGの分解は、PGの分解と同様にD1の分解に必要であることが明らかとなった。以上のことから、Gla1は二量体に作用してMGDGを分解することでPSIIをモノマー化し、D1の分解を促進するものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、PGとMGDGの分解に関わっている遺伝子を破壊した変異株を用いて、PGとMGDGの分解がPSIIの修復に関わっていることを明らかにすることができた。また、PGとMGDGの分解がPSIIの修復のどのステップに関わっているかを調べたところ、両者ともD1の分解に関わっており、D1がスムーズに分解されるにはPSIIに結合しているPGやMGDGの分解も必要であることが明らかになった。これらは、PSIIが修復されるときに、D1だけでなく脂質も分解される必要があることを最初に示した極めて重要な知見である。ほぼ計画通りに研究を進め、順調に成果をあげることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、チラコイド膜に存在する4つの脂質のうち、特に唯一のリン脂質として存在するPGとガラクト脂質の1つであるMGDGについて、それらの脂質の分解がPSIIの修復において、どのような機能を担っているかを解析し、PGとMGDGの分解がPSIIの修復、特にD1の分解に必要であることを明らかにした。また、MGDGの分解は、PSIIの二量体を解離させてモノマー化することでD1の分解を促進することも明らかにした。今後は、MGDGの再生に関わっているアシルトランスフェラーぜの遺伝子がまだ同定できていないので、候補遺伝子の中から目的の遺伝子を同定し、遺伝子を破壊した変異株を作製して解析に用いる。この変異株とすでに得られている変異株を用いて、PGとMGDGの分解と再合成がPSIIの修復にどのように関わっているのか、D1の代謝回転とPGとMGDGの代謝回転との関係を詳細に解析し、PSIIの修復の動的過程に脂質がどのように影響を与えているのか、その分子メカニズムを明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として438,323円生じたが、これは翌年度に物品費として使用する予定である。
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