研究課題
植物の表皮に存在する気孔は青色光に応答して開口し、光合成を支える重要なガス交換を担う。青色光受容体フォトトロピンは、気孔孔辺細胞において細胞膜H+-ATPaseを活性化して細胞膜を過分極させ、電位依存性のカリウムチャネルを介したカリウム取込みを駆動して気孔を開口させる。ところが、青色光がどのようにこれらのイオン輸送体を活性化するのか、気孔開口機構の分子メカニズムは完全には明らかになっていない。これまでに申請者は、フォトトロピンと相互作用するプロテインキナーゼ(PINKs)を多数同定しており、本研究では気孔開口におけるPINKsの生理・生化学的機能を明らかにすることで気孔開口機構をより理解することを目的としている。本年度は、主にPINK1とPINK2に関して研究を行った。PINK1はCIPK23であり、T-DNA挿入変異体を用いた表現型解析から、気孔開口を正に調節することが明らかになった。単離孔辺細胞を用いた解析から、cipk23変異体では青色光による細胞膜H+-ATPaseの活性化は正常に観察されたものの、カリウムチャネルの活性化が抑制されていた。パッチクランプ法による電気生理学実験から、青色光がカリウムチャネル活性を細胞膜H+-ATPaseの活性とは無関係に促進することを明らかにし、このチャネル活性の促進をCIPK23が担うことを明らかにした。以上の結果から、青色光による気孔開口において、細胞膜H+-ATPaseとは別のカリウムチャネル活性化シグナル伝達経路を見出した。また、PINK2に関しては、フォトトロピンに加えて細胞膜H+-ATPaseとも相互作用することを明らかにし、PINK2がH+-ATPaseを直接リン酸化して活性化する可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
PINK1(CIPK23)の機能解析を完了し、気孔開口における新たなシグナル伝達経路を明らかにすることができたため。
2021年度は主にPINK2の機能解析を行う。PINK2が細胞膜H+-ATPaseを直接リン酸化するのか、in vitroキナーゼアッセイを行うほか、酵母を用いた異生物発現系を用いた実験を進めて検証する。また、現在PINK2をコードするプロテインキナーゼの多重変異体を作成しているため、出来次第気孔開度と気孔コンダクタンスの測定を進める。さらに、孔辺細胞H+-ATPaseのリン酸化が野生株に比べて低くなるのか、生理・生化学実験により検証する。以上の解析を行い、PINK2がフォトトロピンの下流、かつ細胞膜H+-ATPaseの上流で機能し、気孔開口を仲介する新規シグナル伝達因子である可能性を検証する。
今年度は未曾有のコロナウィルス蔓延の事態で、大学も何度も閉鎖され、研究遂行が大きく妨げられた。そのため、予定していた実験が行われなかったため、消耗品や実験器具の購入が見送られ、次年度に購入するために予算を繰り越した。来年度、この分の予算を使用し、研究を遂行する予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
The Plant Journal
巻: 104 ページ: 679-692
10.1111/tpj.14955
Photochemical & Photobiological Sciences
巻: 19 ページ: 88-98