研究課題
植物体表にある気孔は青色光に応答して開口し、光合成を支える重要なガス交換を担う。青色光は、受容体であるフォトトロピンを介して孔辺細胞の細胞膜H+-ATPaseを活性化して気孔開口を駆動するが、細胞膜H+-ATPaseの活性調節機構は完全には明らかになっていない。今年度は、フォトトロピンの下流でリン酸化されるタンパク質として過去に同定した、SYP132の機能解析を中心に研究を行った。SYP132は進化的にエキソサイトーシスを制御する細胞膜タンパク質である。T-DNA挿入変異体を用いて表現型解析を行い、SYP132が光屈性や葉緑体運動などのフォトトロピンが仲介する青色光応答には関与していないが、気孔開口を正に調節することを明らかにした。さらに、SYP132のリン酸化部位を同定し、その部位にアミノ酸置換を導入した変異SYP132を用いて機能相補実験を進め、SYP132のリン酸化がSYP132の機能を抑制する可能性を見出した。また、発現解析を行いSYP132が植物体でユビキタスに発現することを見出し、同じくユビキタスに発現する細胞膜H+-ATPaseと植物体内で物理的に相互作用することを見出した。さらに、細胞膜H+-ATPaseの細胞膜へのリクルートを介して気孔開口を促進させることが知られているPATROL1とSYP132が物理的に相互作用することを明らかにした。以上の研究から、SYP132はPATROL1と協調して働き、細胞膜H+-ATPaseの細胞膜へのリクルートを介して気孔開口に関与する可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、気孔開口の鍵酵素である細胞膜H+-ATPaseの活性制御に関与するSYP132という新たな因子を見出しており、気孔開口の分子メカニズムの理解を着実に進めつつあるため。
2022年度は、孔辺細胞の細胞膜における細胞膜H+-ATPaseのタンパク量がsyp132変異体では低下するのか明らかにし、今年度に見出された可能性を検証する。また、フォトトロピンと物理的に相互作用することを見出しているPINK2について、その機能解析を行う。今年度にPINK2をコードするプロテインキナーゼの多重変異体を作成したため、今後は気孔開度と気孔コンダクタンスの測定を進める。さらに、孔辺細胞H+-ATPaseのリン酸化が多重変異体では野生株に比べて低くなるのか、生理・生化学実験により検証する。これらの解析を行い、PINK2が細胞膜H+-ATPaseを活性化し、気孔開口を仲介する新規シグナル伝達因子である可能性を検証する。
今年度も未曾有のコロナウィルス蔓延の事態で、学会や共同研究のための出張ができなくなり、研究遂行が妨げられた。そのため、予定していた実験が一部行えなかったため、消耗品や実験器具の購入が見送られ、次年度に購入するために予算を繰り越した。来年度、この分の予算を使用し、研究を遂行する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Plant Physiology
巻: 188 ページ: 2228-2240
10.1093/plphys/kiab571