研究課題/領域番号 |
20K06705
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷 あきら 京都大学, 理学研究科, 教授 (40183082)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フィトクロム / 分子種 / 舌構造 / 温度応答 / 避陰応答 / 植物進化 |
研究実績の概要 |
植物の主要な光受容体フィトクロムにはA(phyA)とBという機能が大きく異なる分子種が存在する。植物は進化の過程で、両者のアミノ酸配列の一部を変化させ、この機能分担を実現した。しかしながら、具体的にどのアミノ酸残基がどのように機能分化に寄与しているかは分かっていない。本研究では、フィトクロムAとBの中間の分子を様々設計し、それらを遺伝子導入植物で発現させ機能を評価することで、この謎の解明を目指した。 本年度は、我々がこれまで進めてきたphyA/phyBキメラ分子の解析結果に基づき次の3項目について進めた。1)PHYドメイン内の舌構造上のアミノ酸置換とphyの光感度の関係、2)舌構造の変化が温度応答に及ぼす影響、3)GAFドメインの構造とphyAに特徴的なPfr依存分解の関係。 1)については、予備的な実験により作成済みのアミノ酸置換変異体について、導入フィトクロムの発現量と胚軸伸長抑制活性を詳しく調べ、新たに3つの重要なアミノ酸残基を明らかにした。2)については、野生株、標準変異体株、phyA/phyBキメラ分子発現株などで、既報に従い温度応答を詳しく調べたが、期待したような応答が得られず、温度によるフィトクロム応答の変化は限定的であることが示唆された。3)については、研究に必要な形質転換用のベクターの作成を進めた。さらに、2)の項目の副産物として、PASドメインが避陰応答に関わるという、まったく予想していなかった結果が得られた。この特徴は、phyAの進化を考える上でも非常に興味深い。そこで、項目2)を廃止し、phyA型PASドメインによる避陰応答の消失を新たな研究項目とすることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)PHYドメイン内の舌構造上のアミノ酸置換:すでに作出ずみの9種のアミノ酸置換変異(phyA型からphyB型への変異)について、導入フィトクロムの発現量と胚軸伸長抑制活性を詳しく調べた結果、予備実験の結果とは一部異なる3つのアミノ酸残基が重要なこと、微弱赤色光応答においては変異体の表現型が出にくいことが明らかとなった。そこで、phyBに当該の3アミノ酸置換をまとめて導入し、どこまでphyA化(=赤色光に対する高感度化)が進むかを調べることとした。当初の予定よりやや遅れているが、早急に形質転換を進める計画である。 2)舌構造の変化が温度応答に及ぼす影響:野生株、phy変異株、phy導入植物などを用いて温度応答を調べたが、報告されているような明確な結果は得られなかった。むしろ、これまで報告されていた温度応答が、活性型phyBに依存する成分、活性、不活性を区別せずphyB自体の存在に依存する成分、phyBとは無関係な成分、などが絡み合った複雑な応答であることが示唆された。このため変異フィトクロムの温度応答を評価することは困難と判断し、この項目を廃止した。 3)GAFドメインの構造とphyAに特徴的なPfr依存分解の関係:やや遅れ気味であるが、形質転換の手順を進めた。次年度には何らかの結果が得られる予定である。 4)PASドメインの避陰応答に及ぼす影響(新項目):2)を行う過程で、PASドメインがphyA型であると、他のドメインがphyB型であっても避陰応答が起こらなくなることを見出した。一方、このキメラフィトクロムの連続赤色光やパルス赤色光に対する応答は正常であった。このことは、当該キメラフィトクロムが遠赤色光により不活性化されない場合があることを示している。これは非常に重要な発見であるため、当初の計画を変更してさらに詳しい解析を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
1)PHYドメイン内の舌構造上のアミノ酸置換:phyBに当該の3アミノ酸置換をまとめて導入したフィトクロムを発現する形質転換系統を作出し、赤色光に対する高感度化がどの程度進むかを評価する。当初の予定では遠赤色光応答も同時に調べられるような文脈で変異を入れる予定であったが、表現型の評価が困難であることが予想されるため、赤色光応答に絞った解析を行うこととした。 2)舌構造の変化が温度応答に及ぼす影響:そもそも報告されているような温度応答がはっきりと確認できないため、この項目は廃止とする。 3)GAFドメインの構造とphyAに特徴的なPfr依存分解の関係:できるだけ早く形質転換体を得て、Pfr依存的分解を調べる。 4)PASドメインの避陰応答に及ぼす影響(新項目):詳しい生理実験を進め、どのような条件下で遠赤色光に応答しなくなるかを調べる。また、まだ調べていないphyA/phyBキメラフィトクロムについて、同じようなことが観察されるかを調べる。さらに、当該キメラフィトクロムが、より野外環境に近い陰環境においてどういったふるまいをするかを調べ、phyAのPASドメインに起きたアミノ酸置換の生理・生態学的意義について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存のアミノ酸置換変異体の解析が予定よりやや遅れたため、この結果をもとに進める計画だった形質転換実験が次年度にずれこんだ。これに伴い、ベクターの作成や植物の形質転換のための費用が生じた。
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