研究課題
本研究では水輸送機能と同時にナトリウム輸送機能も合わせ持つ、すなわち2つの異なる輸送機能をデュアルで示す新型アクアポリンを対象として、分子生理学および電気生理学的手法によって機能特性を解明すること、また免疫組織化学や形質転換体を用いて生理機能を明らかにすることを目指している。本年度はオオムギが持つこのタイプのアクアポリンHvPIP2;8を中心に実験をおこなった。オオムギには12個の原形質膜型アクアポリンがあるが、そのなかでHvPIP2;8だけが水とイオンに対するデュアル輸送機能を示した。イオン輸送活性はアフリカツメガエル卵母細胞を用いた異種機能発現系に電気生理学的手法を適用して測定した。HvPIP2;8に関連するイオン電流は、Na+とK+で検出されたが、Cs+、Rb+、Li+では検出されなかった。また、Ba2+、Ca2+、Cd2+で阻害され、さらにCa2+と相互作用するMg2+ではより少ない程度で阻害された。また、K+、Cs+、Rb+、Li+の存在下では、Na+のみの場合に比べて電流が減少した。HvPIP2;8と共発現させた5種類のHvPIP1アイソフォームは、HvPIP2;8単独の場合に比べてイオン輸送性を抑制したが、HvPIP1;3およびHvPIP1;4とHvPIP2;8の組み合わせでは、イオン輸送性が低いレベルで維持された。HvPIP2;8の水透過性はC末端リン酸化模倣変異体HvPIP2;8 S285Dと同様であったが、HvPIP2;8 S285Dでは水透過性とイオン透過性の間に負の線形相関が見られ、キナーゼ阻害剤処理により変化した。HvPIP2;8の転写量は、耐塩性品種である「はるな二条」では塩処理後にオオムギのシュート組織で増加したが、塩感受性品種であるI743では増加しなかった。
2: おおむね順調に進展している
順調に実験、測定が進行して、HvPIP2;8のイオン透過特性について最初の報告(論文)を出すことができた。イネのイオン輸送性アクアポリンとしてはOsPIP2;4を同定しているが、その特性解析は初年度には完了することができなかったので引き続き実験を進めている。
本研究では、以下の2つの小課題を設定している。小課題(A):Na+透過性アクアポリンのイオン輸送特性と分子機構の解明小課題(B):Na+透過性アクアポリンによる形質転換植物体の解析(A)については、R2年度中にHvPIP2:8の基本的な輸送特性を解明したので、R3年度はNa+透過性アクアポリンであることが判明しているイネのOsPIP2;4について輸送特性の解明を進めてR3年度中に論文とすることを予定している。またイオン輸送活性を持たないPIPアクアポリンを比較して、アミノ置換などによる人工変異アクアポリンを作出してその輸送活性を測定することで、イオン輸送活性を実現している分子メカニズムを明らかにする実験を今後進める。(B)についてはNa+透過性アクアポリンOsPIP2;4形質転換植物イネ(抑制体、過剰発現体)を何系統か取得している。今後これらの系統の生育特性、特に塩ストレス環境下での生育、ストレス耐性、ナトリウムの蓄積などを測定して、イオン輸送活性をもつアクアポリンの植物体における生理機能を明らかにすることを目指す。また変異体の系統数が少ないので、追加で変異系統の作成も実施する。
研究分担者(信州大学・堀江教授)とイネのデュアル輸送機能を示すアクアポリンOsPIP2;4についてOsPIP2;4の変異体を使った実感と、さらなる変異体イネ作成を進める予定であった。しかしコロナ感染の広がりで相互の行き来の自粛を余儀なくされた。またOsPIP2;4を用いた共同実験も規模を縮小せざるを得なかった。このために旅費と消耗品費の一部を予定のようには使うことができず次年度使用になった。次年度は分担者と共に進める形質転換イネを使った実験を推進する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 21 ページ: 7135
10.3390/ijms21197135