我々は近年、苔類ゼニゴケにおいて葉緑体核様体が明所で小さなスペックルを複数形成しながら葉緑体全体に分散し(光分散)、暗所でスペックルの消失とともに葉緑体中央に集まる(暗集合)現象を見出している。核様体の光分散は光照射後3時間以内に起こる比較的速い反応であり、光合成阻害剤やDNAジャイレース阻害剤によって阻害される。また、葉緑体RNA-seq解析から、核様体の光分散と葉緑体遺伝子の発現変動には相関があり、光合成に関わるいくつかの遺伝子の発現変動が認められる。さらに、DAPIを用いた蛍光寿命イメージング解析から、DAPI近傍のDNAのミクロな環境には大きな変化はないが、DNAの高次構造が変わることで核様体の光分散が起こることが示唆された。我々はこうした事実をもとに、光合成に関わる葉緑体遺伝子の発現が、葉緑体DNAの高次構造変化を伴う空間再配置を介して光依存的に調節されるという新たなモデルを提唱する。本研究計画の最終年度に当たる今年度は、これまでの実験データの補強をして、論文にまとめる作業を行った。
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