研究課題/領域番号 |
20K06713
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
西野 敦雄 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (50343116)
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研究分担者 |
藤原 滋樹 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (40229068)
藤本 仰一 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (60334306)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ペースメーカー細胞 / リズム形成 / 進化 / 脊索動物 / 尾索動物 / 心臓 |
研究実績の概要 |
心臓は,脊椎動物の生存に不可欠な器官であるが,その進化的起源についてはいまだ不明な点が多い。脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物の系統であるホヤ類も心臓をもつが,このホヤ類の心臓は,拍動方向を定期的に反転させるという奇妙な特徴を示す。 我々は,ホヤの一種カタユウレイボヤの心臓において,(1)二つの独立したペースメーカー細胞集団が心臓管の両端5%の領域(P領域とよぶ)に限定的に存在すること,(2)一方のP領域のリズムが他方より速いと,遅い側のリズムが顕在化しないこと,(3)取り出した鰓側のP領域(PH領域)と臓側のP領域(PV領域)は,互いに異なる"変調リズム"を刻むことを見出した。令和2年度には,実験生理学的な手法と画像解析手法を組合せ,動画撮影下でホヤ心臓管の切断実験をさまざまに行うことで,心臓反転現象が起こる仕組みを詳細に分析し,上記の3点をさらに確証した。 また,本研究において我々は,ホヤ心臓の部域特異的トランスクリプトームの分析を行い,心臓の部域特異性の確立,拍動のペースメーカー機能,変調リズム形成に関わると期待される遺伝子を絞り込み,その遺伝子クローニングを行った。令和2年度において,それらの遺伝子群の発現パターンをin situ hybridization法によって分析した。これらの因子をゲノム編集技術によってノックアウトする研究にも着手した。さらには,上記の3項目を考慮した心臓管の拍動反転現象に関する数理モデルを作成し,心臓の拍動方向の反転の際に実際に観察されるさまざまな拍動の変化のパターンが,数理モデル上でも再現されることを確認した。現在も,それぞれの解析を深めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスクリプトーム解析から,転写因子やイオンチャネル等の,心臓の部域特異性の確立,ペースメーカー機能,変調リズム形成に関与することが期待される因子について,絞り込みを行うことができた。計画していたほとんどの因子について,全長cDNAのクローニングを行うことができた。取り出した心臓に対するin situ hybridizationによって,それらの因子の発現部位を明らかにする方法を,ほぼ確立できた。標準的な方法では非特異的な染色が強く現れたため,条件の見直しを繰り返し行う必要があったが,方法を段階的に改良していくことによって,現在では,発現量が少ない因子の発現部位の解析もできるようになってきた。今後,活用していくことになる実験手法を,着実に確立していくことができた。TALENによるゲノム編集に着手し,より効率を高める条件検討に入ることができた。数理モデル解析によるin silico実験の結果が,高度に実際の観察事実と対応付けられることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)現在までにほぼ確立できたin situ hybridizationの方法によって,心臓の部域特異性の確立,ペースメーカー機能,変調リズム形成に関与すると期待される因子について,心臓における発現部位を明確にする。 (2)ゲノム編集による遺伝子ノックアウト等による発現抑制実験を行い,心臓の拍動,反転現象,他の遺伝子の発現への効果を検証する。 (3)局所的強制発現を行い,心臓の拍動への効果を検証する。 (4)二次メッセンジャーの可視化を試みる。 (5)数理モデルと観察結果の相互参照をさらに深め,拍動反転現象を可能にする要件を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染拡大防止対応として,研究打合せを対面ではなく,ウェブ会議方式で行ったため,旅費を使用しなかった。また遺伝子クローニングが予想よりスムーズに進んだため,分子生物学用の消耗品の消費も少なくて済んだ。これらは令和3年度以降の研究に資する,高価な阻害剤の購入や有用なコンストラクトの購入のための費用に充当し,次年度以降により充実した解析を行うことができるように,資金を活用していく。
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