本研究は、精子走化性をはじめとした精子運動調節機構に着目し、Ca2+シグナル系を比較解析して共通性と多様性を理解し、最終的には多様性・種特異性を含め た受精時における精子運動調節の分子機構の全容解明を目標とする。今年度は下記の研究を行った。 (1) 精子運動調節に関わるCa2+シグナル系の解析: カタユウレボヤにおけるCatSper遺伝子の発現バターンをリアルタイムPCRにて詳細に調べ、精子以外でも鰓や筋肉で発現していることを明らかとした。 (2) 硬骨魚類精子の運動開始を担うCa2+シグナル系の同定: CatSperの存在しない真骨魚類精子の運動開始機構に関与する分子の同定を目指している。今年度は、クサフグの精子形成期の精巣のRNAseqを行い、精子で発現しているタンパク質の多くは精細胞が多く見られる時期に発現していることを見いだした。さらに、その時期にはNMDA受容体等、これまで精子での機能が知られていないチャネル分子が発現していることもわかった。 (3)放卵放精時における配偶子の成熟機構:カタユウレイボヤでは、放卵放精が精子走化性の引き金になっていることがわかっている。その仕組みを調べたところ、ホヤ体内では卵はpH6という低いpHで保存されており、放卵時に卵周囲のpHが上昇することで、精子誘引物質の放出が開始することが明らかとなった。一方で、精子側も放精時にpHの上昇がおき、そのpH上昇が精子運動を活性化するが、精子の走化性応答にはpHは影響ないことがわかった。
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