研究課題/領域番号 |
20K06719
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
徳元 俊伸 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (30273163)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ステロイド膜受容体 / 卵成熟 / 排卵 / ゲノム編集 / スクリーニング法 / 天然活性物質 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
本研究の第一の目的は細胞膜表面のステロイド膜受容体mPRを介したノンゲノミックなシグナル伝達経路の生理学的意味を示すことである。さらに、これまでのmPRの研究実績を生かして未同定となっているコルチコイドの膜受容体(mGCR)の新規発見も目指す。一方で研究代表者らはサンゴ礁海水中にmPR反応性の天然ホルモン活性物質が存在することを発見し、これを分泌する海藻を特定している。本研究では人工合成に成功(特許技術)しているmPR分子を用いたmPR反応性物質の新規アッセイ法を開発し、この天然ホルモン活性物質の同定を目指す。一方、研究代表者らが開発した新規卵成熟・排卵誘導法を用いて選択した排卵誘導遺伝子群を同定する。この手法は卵成熟誘導反応経路と排卵誘導経路を明確に区別できる初めての方法であり、世界的にも非常に特色のある研究になると思われる。排卵誘導機構が解明されれば排卵障害による不妊の問題への対処法のヒントを与えることも期待される。これまでにゼブラフィッシュmPRの7遺伝子についての遺伝子のノックアウトゼブラフィッシュ(KO)系統及び排卵誘導遺伝子候補の8遺伝子のKO系統の確立に成功した。一部については表現型解析が完了し、論文発表もしている。グラフェンQドットナノ粒子とmPR分子を結合させた分子を用いたハイスループットなmPR反応性分子のアッセイ法も確立できた。この方法により海藻由来の天然ホルモン活性物質の精製にも成功している。この活性物質の生体内合成経路の解明のためにも、この物質を分泌している海藻であるウミウチワのゲノム解読も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新規ステロイド膜受容体mPRの5種類、計7個のmPR 遺伝子のノックアウトゼブラフィッシュ(KO)系統をCRISPR/Cas9システムにより樹立できた。一部の変異系統で発生異常を示すものが得られた。 ステロイド膜受容体mPR分子を用いたmPR反応性物質の新規アッセイ法についてはグラフェンQドットナノ粒子にmPRを結合させたナノ粒子(mPRα-GQD)を調製し、プロゲステロン特異的な反応性を得ることに成功した(論文発表)。海藻ウミウチワの分泌する天然ホルモン活性物質、2種類についてHPLCによる精製に成功し、mPRα-GQDを用いたアッセイでmPR反応性を示す物質であることが確かめられた。興味深いことにこれらは赤色蛍光を示す蛍光物質であることが分かった(論文投稿中)。さらにウミウチワのゲノム解読について申請したところ先進ゲノム支援プロジェクトに採択され、現在ゲノム解読が進行中である。解読されれば世界的にも未解明な分類群となっている海藻の一属の解明となり、今後の海藻類全体のゲノム解明に向けた大きな一歩となることが期待される。また、新規天然化合物の合成経路解明のための重要な情報源となる。 排卵誘導遺伝子候補については興味深い異常を示すprss59.1遺伝子KO系統が新たに確立できた。この系統では排卵は正常に起こるものの受精膜の上昇が顕著に異常となった。また、昨年度、我々が新たに発見した受精膜上のドアノブ状の突起構造の形成異常も見られた。解析の結果、prss59.1タンパク質は突起構造に存在し、受精膜上のビテロジェニンタンパク質の分解に関わっていることが明らかになった(論文投稿中)。一方、prss59.1タンパク質が遺伝子配列から予測されるトリプシン様酵素であることも明らかにした(論文発表)。以上のように研究は予定以上の進展をみせている。
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今後の研究の推進方策 |
系統樹立したmPR KO fish の内、異常を示した系統については異常の原因解明のため、今後、詳細な表現型解析を進める。特に遊泳行動に異常を示したKO fish系統については脳形成の異常について注目して解析を進める。一方で最初に発見され、生殖機能への関与が示唆されているmPRαとmPRβについては引き続き3重変異体の作出を目指す。新たな方法として確立できたmPRα-GQDの新規アッセイ法については、この手法を他の膜受容体、特にエストロゲンの膜受容体mERについても応用を目指すとともに新規医薬品のスクリーニング法として製薬企業などに広報する。精製法を確立した海藻由来の天然ホルモン活性物質については大量分離による化学構造の決定を進める。多くの新しい機能の発見が期待される排卵関連遺伝子KO fish系統については残りの5遺伝子についても表現型を注意深く観察し、機能解明を継続して進めていく。近日中に解読が完了する予定のウミウチワのゲノム情報については解析を進め論文発表を目指す。極めて新規性の高いmGCRの新規同定に向けた試みも継続して取り組む。これまでにキンギョの脳や腎臓の膜タンパク質可溶性画分にコルチコイドの結合活性を検出し、それらの試料中に存在するタンパク質の同定を進めた結果、いくつかの候補分子は見つかっている。これらの遺伝子からリコンビナントタンパク質を発現し、コルチコイド結合活性を持つ新規受容体の同定を進める。
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