研究課題/領域番号 |
20K06720
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
日下部 誠 静岡大学, 理学部, 准教授 (40451893)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 陸封型イトヨ / Na+-Cl-共輸送体 / 海水適応能 / 塩類細胞 |
研究実績の概要 |
2021年度は、県外への移動も可能となり、福井県大野市の陸封型イトヨ(大野イトヨ)と岐阜県大垣市の陸封型イトヨ(大垣ハリヨ)を入手することが出来た。イトヨ海水馴致実験の実験系を立ち上げ、50%海水の馴致実験を行った。両集団のイトヨとも50%海水には問題なく馴致した。(予備実験において、大野イトヨは100%海水に馴致できるが、大垣ハリヨは100%海水に生存できないことを確認している。)50%海水移行後3日目にサンプリングを行い、浸透圧調節器官である、エラを採取した。採取した組織からRNAを抽出し、リアルタイムPCR法によりエラに発現するイオン輸送体・チャネルの遺伝子発現量を定量解析した。エラの解析では、ナトリウムポンプであるNa+/K+-ATPase (NKA)、Na+-K+-2Cl--共輸送体 (NKCC)、嚢胞性線維症膜貫通調節因子 (CFTR)、 Na+-Cl-共輸送体(NCC)などの浸透圧調節における代表的なイオン輸送体・チャネル遺伝子の解析を行った。さらに、量的形質遺伝子座(QTL)解析で明らかになった16番染色体に存在する浸透圧調節候補遺伝子(cln5,calcrl,igfbp5,gdp-like,brp44,atp5g3,ndufa10)の解析も行った。その結果、高い海水適応能を持つ大野イトヨにおいて、エラに発現するナトリウム・クロライド共輸送体様輸送体(NCC-like)が、有意に高い発現を示した。大野イトヨにおいて、NCC-like遺伝子が高い発現を示す理由をATAC-Seq法を用いて解析した。しかしながら、NCC-like遺伝子のオープンクロマチン領域は、大野イトヨと大垣ハリヨの明確な違いないことが明らかになった。ATAC-Seq法による解析では、目的遺伝子(NCC-like)のエピジェネティックな構造変換に伴う転写の活性化の可能性は確認できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症対策における県外移動の制限が緩和されたことによって、福井県および岐阜県に陸封型イトヨをサンプリングできる環境が整った。また、実験室内のイトヨ飼育環境も整備され、海水馴致実験を順調に実施することが出来た。ATAC-Seq法により、NCC-like遺伝子の発現量の違いがエピジェネティックな制御ではない可能性が高いことが明らかになったことは、次の解析の方向性を決める重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究は、大きく分けて2点の研究計画がある。ひとつは、NCC-likeの機能解析である。これまでの研究によって、NCC-likeが海水適応能の高いイトヨ集団のエラで海水条件において高く発現することが分かってきた。しかしながら、エラに発現するNCCは一般的には、淡水適応時に発現が上昇し、ナトリウムとクロライドを細胞内に取込む働きがある。イトヨのエラにおいても、淡水条件で発現が上昇するNCCが存在する。本研究で明らかになったNCC-likeがエラの塩類細胞でどのイオンをどのように輸送するかは、今後解析を進める必要がある。また、NCC-likeが発現する塩類細胞がどの型の塩類細胞であるかについても解析を進める予定である。 ふたつめは、環境塩分の違いにより誘導される遺伝子発現量の違いが、エピジェネティックな制御によるものである遺伝子を探索する。RNA-seqの結果から、大野イトヨのエラで高く発現している遺伝子をリストアップし、ATAC-seqの結果の結果と比較改正する。エピジェネティックな制御による浸透圧調節は、これまで調べられたことがない。この解析によって、エピジェネティックな制御によって変動する浸透圧調節に関わる遺伝子を同定することが期待される。 以上の研究により、同種内で浸透圧調節能が多様化するメカニズムを明らかにする。
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