浸透圧調節能が異なる二つの陸封型イトヨ集団(大野イトヨと大垣ハリヨ)について海水馴致実験を行い、エラのRNAseqによる遺伝子発現解析およびACATseqによる遺伝子発現調節メカニズムの解析を実施した。大野イトヨと大垣ハリヨの浸透圧調節能がどのような因子により制御されているかについて解析を進めた。海水に馴致した大野イトヨと大垣ハリヨのエラに発現する遺伝子のうち、発現量が大野イトヨにおいて有意に高いイオン輸送体・チャネル遺伝子として複数のカリウムチャネル(e.g. kcnk2a)およびクロライドチャネル(e.g. clcn2a)がリストアップされた。これまで浸透圧調節能のパラメーターとして血中ナトリウム濃度を用いてきたが、今後は血中カリウムやクロライド濃度の測定も考慮に入れる必要があることが示唆された。 浸透圧調節に関わるイオン輸送体・チャネル遺伝子の発現がオープンクロマチン領域の分布の違いにより調節されているかをACATseqにより解析した。上記のリストアップされたイオン輸送体・チャネル遺伝子について、個々のオープンクロマチン領域の分布を調べたが明確な違いは検出されなかった。しかしながら、全遺伝子について主成分分析すると大野イトヨと大垣ハリヨでは、オープンクロマチン領域の分布に差異があることが分かった。 浸透圧調節能の多様化への甲状腺ホルモンの関与を検証するため、イトヨ成長と甲状腺発達を解析に加えた。イトヨ仔魚から稚魚への変態等の生活様式が大きく変化する時期に甲状腺の発達が認められた。今後は、浸透圧調節能が異なる集団間で甲状腺の発達に違いがあるかについて解析を進めていく予定である。 本研究によって大野イトヨと大垣ハリヨの浸透圧調節の制御機構の遺伝基盤に違いが存在することが認められた。今後は、その違いが具体的にどのような制御機構に関与しているかについて解析を進める。
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