鳥類の羽は哺乳類の毛と同様に,表皮細胞に由来する皮膚付属器である。ニワトリでは,鞍羽に顕著な性差が見られ,雌では褐色(ユーメラニン色)を呈する丸型羽であるのに対し,雄では光沢のある赤褐色(フェオメラニン色)の飾り羽で,尖った先端部には小羽枝を欠くフリンジ構造がみられる。羽の性差形成については雄型の羽が雌雄に共通なデフォルトであり,雌型羽は卵巣由来のエストロゲンの作用によって形成れること,このエストロゲン作用には甲状腺ホルモンが不可欠であること, 甲状腺ホルモン欠乏下では,性とは無関係に雄鞍羽に類似なフリンジ構造をもつ光沢のある赤褐色羽が形成されることなどが知られていたが,羽形成におけるホルモン作用の分子機構については不明な点が多く残されてきた。本研究では,ニワトリの羽形成におけるエストロゲン系,メラノコルチン系,甲状腺ホルモン系のクロストークおよび,遅羽遺伝子の解析を通して,甲状腺ホルモンと酷似した働きが報告されているプロラクチンの羽形成における作用機序の検討を行ってきた。本年度は,これらのホルモン系のクロストークの場である羽髄細胞の初代培養系をもちいた解析から,羽伸長を促進するプロラクチンシグナルの下流候補因子を同定するとともに,それらの因子間のクロストークについて検討した。また,甲状腺ホルモンによる体色黒色化への局所性メラノコルチンの関与を明らかとするため,羽髄細胞におけるPOMC発現に及ぼすT3の効果を検討し,羽の色模様形成における甲状腺ホルモンの役割を考察した。さらに,フェオメラニン産生を誘導するASIPの性格付けを行い,局所産生される意義を検討した。
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