研究課題/領域番号 |
20K06722
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前嶋 翔 岡山大学, 理学部, 特任助教 (10773286)
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研究分担者 |
坂本 浩隆 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (20363971)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経科学 / 神経内分泌 / 神経ペプチド / 性行動 / ガストリン放出ペプチド / ガストリン放出ペプチド受容体 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、末梢において雄の性機能を制御する神経ペプチドであるガストリン放出ペプチド(GRP)が脳において雄の性行動制御に関与するかについて行動薬理学的解析により調べた。まず、雄ラットの性行動の制御中枢である内側視索前野(mPOA)にGRP受容体アンタゴニストを微量投与することで内因性のGRPの活性を阻害して行動解析を行ったところ、イントロミッションや射精といった勃起能に関する指標が低下した。このことからmPOAにおいてGRPシグナルが性行動を亢進的に制御している可能性が考えられた。次に、所属研究室において作出したGRP受容体発現ニューロンにおいてヒトジフテリア毒素受容体を発現する遺伝子改変ラットを用いて、mPOAのGRP受容体発現ニューロン(mPOA・GRPR+ニューロン)の性行動制御への関与を解析した。mPOAへのジフテリア毒素投与によりmPOA・GRPR+ニューロンの細胞死を誘導すると雄ラットの性行動が完全に消失した。したがって雄ラットの性行動制御機構において、mPOAGRPR+ニューロンが極めて重要な役割を担っていることが示唆された。次に、mPOA・GRPR+ニューロンの神経活性を任意に操作することを目的に、所属研究室で作出したGRP受容体発現ニューロンにおいて組換え酵素Creを発現する遺伝子改変ラットを用いて薬理遺伝学的解析を行った。Cre依存的に興奮性人工Gタンパク質共役型受容体(hM3Dq)を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを構築してラット脳内へ投与し、GRP受容体発現ニューロン特異的にhM3Dqを発現させた。リガンドであるCNOを腹腔内投与して神経活性化マーカータンパク質であるc-fos発現を組織学的に解析したところ、80%のGRP受容体発現ニューロンの活性化を誘導した。これにより、mPOA・GRPR+ニューロンの活性を時空間特異的に操作する手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に行動学的解析を行い、脳内、特に雄ラットの性行動の制御中枢であるmPOAにおいてGRP-GRP受容体シグナル系が雄ラットの性行動制御に極めて重要な役割を担っていることを明らかにした。加えて、遺伝子改変ラットとアデノ随伴ウイルスベクターの組み合わせによりGRP受容体発現ニューロンの神経活性を任意に操作する手法を確立している。また、Cre依存的に赤色蛍光タンパク質を発現するレポーターラットとの掛け合わせにより、所属研究室で維持しているGRP受容体発現ニューロンにおいてCreを発現する遺伝子改変ラットを用いた解析の妥当性が確認できた。一方で、GRP系の活性制御に関する生理活性物質やGRPならびにGRP受容体発現ニューロンの神経回路に関する解析は未着手であるため今後の解析と並行して行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で得られた結果を基に、雄ラットの性行動制御におけるGRP-GRP受容体シグナル系の役割をより詳細に解析するため、引き続き遺伝子改変ラットとアデノ随伴ウイルスベクターを組み合わせた行動学的解析を行う。具体的には、mPOA・GRPR+ニューロンに抑制性の人工Gタンパク質共役型受容体であるhM4Diを発現させてmPOA・GRPR+ニューロンの神経活性を抑制した際の性行動を観察する。またCa2+インジケーターであるGCaMPを発現させることでmPOA・GRPR+ニューロンの神経活性をリアルタイムにモニタリングする実験系を確立し、性行動中の雄ラットにおいてどのタイミングでmPOA・GRPR+ニューロンが活性化するか解析する。並行して神経トレーサーや蛍光タンパク質標識によりmPOA・GRPR+ニューロンの神経回路を可視化し、特に脊髄との連関が存在するか解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主に動物を用いた行動薬理学的解析を主として行ったため、神経回路の解析に用いる試薬類などの消耗品の購入を行わなかった。次年度は試薬類の購入やアデノ随伴ウイルスベクターの構築に使用する予定である。
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