研究課題
嗅覚の発達した動物では一次嗅覚中枢から高次中枢へ投射するニューロンが複数の並行経路を形成する。しかし、並行経路で処理される情報が高次嗅覚中枢でどう統合処理され、ひとつの行動出力へと結びつくのかは理解されていない。嗅覚の発達したワモンゴキブリは嗅感覚ニューロンから糸球体を経て記憶中枢(キノコ体)に至るまで明瞭に分かれた2本の並行経路を持つ。キノコ体の葉部の非γ層は触角葉奥にある大きな糸球体から出力するType1投射ニューロンの情報を優先的に処理し、γ層は触角葉表面にある小さな糸球体から出力するType2投射ニューロンの情報を優先的に処理する。本研究の目的は、キノコ体の葉部における機能構築を単一ニューロンレベルで精査することで、並列経路の機能的意義を理解することを目標とする。2020年度は当初計画通り、垂直葉の直線部分約200マイクロメートルの領域に記録電極をピンポイントで刺入し、細胞内記録・染色を行った。その結果、非γ層とγ層から出力するニューロンの生理学的性質やその形態は大きく異なっていること、両経路は少なくとも行動出力の企画に関わる前大脳側葉に至るまでは分離されていることがわかった。また、葉部に入力し、その活動を修飾すると思われるニューロンの多くはγ層と非γ層の両方を支配しており、入出力部位が混在していること、規則的かつ持続的な活動を示すことを明らかにした。また、脳の水平切片を作成することにより、ニューロンの入出力部位の判別を容易に行えることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通り、垂直葉の直線部分に的を絞り、細胞内記録を行ったが、記録される大多数のニューロンは非γ層からの出力ニューロンであった。γ層への入出力ニューロンからの記録は脳表面に位置しており、しかも小さいことから困難を極めた。それでもγ層から出力するニューロンからの記録・染色に数例成功し、概ねType2投射ニューロンの発火や応答の特徴を反映していること、非γ層の出力ニューロンとは大きく異なる形態を持つことを明らかにした。また、樹状突起や軸索終末の分布は水平切片を作成することで容易に評価できることがわかり、記録部位の生理学的性質から推定される入出力部位と良く合致することがわかった。以上、研究初年度の到達目標であったγ葉の出力ニューロンの生理学的特徴、形態を明らかにすることができ、次年度以降の研究に弾みのつく成果を得た。
研究2年目後半以降は、対象を水平葉にも拡げつつ、葉部全体の機能構築について調べる。自発発火、多種感覚刺激に対する応答特性、入出力部位、伝達物質について部域ごとの特徴を調べるとともに、ショウジョウバエの葉部の機能構築との共通性・相違点を比較する。とくに、γ層、非γ層のみから出力するニューロンの前大脳側葉への投射パターン、γ層と非γ層の情報統合に寄与するニューロンの形態や生理学的特徴に特段の注意を払う。葉部から出力するニューロンの中にノンスパイキングニューロンが存在するのかどうかについても精査していきたい。
当初計画では国内学会で2回発表予定であったが、札幌市や北海道大学独自の感染防止の取り組みのために、移動を控える状況が生じたこと、実験昆虫の支払いを別財源から行ったことで、約30万円程度の次年度繰り越し金が生じた。この繰り越し金はデータ解析、図作成用のPC1点の購入に充てる予定である。
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ファルマシア
巻: 57 ページ: 180-184
10.14894/faruawpsj.57.3_180
Zoological Letters
巻: 6 ページ: 1-15
10.1186/s40851-020-00163-7
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http://www.es.hokudai.ac.jp/labo/nishino/