研究課題
嗅覚の発達した動物では一次嗅覚中枢から高次中枢へ投射するニューロンが複数の並行経路を形成する。しかし、並行経路で処理される情報が高次嗅覚中枢でどう統合処理され、ひとつの行動出力へと結びつくのかは理解されていない。ワモンゴキブリは嗅感覚ニューロンから糸球体を経て記憶中枢(キノコ体)に至るまで明瞭に分かれた2本の並行経路を持つ。キノコ体の葉部のγ層は触角葉表面にある小さな糸球体から出力するType2投射ニューロンの情報を優先的に処理し、非γ層は触角葉奥にある大きな糸球体から出力するType1投射ニューロンの情報を優先的に処理する。本研究の目的は、キノコ体の葉部における機能構築を単一ニューロンレベルで精査することで、並列経路の機能的意義を理解することにある。2022年度は記録対象をキノコ体葉部垂直葉のみならず水平葉にも拡張し、細胞内記録を試みた。その結果、いずれの葉部においてもγ層から特異的に出力する介在ニューロンのサイズは非常に小さいこと、自発発火が少なく、高いEPSPを出すことから葉部に樹状突起を持つ典型的な出力神経の性質を示すこと、逆にγ層のみに特異的に出力するニューロンはほとんど存在しないか、あってもごく少数と思われることがわかった。一方で、非γ層から出力するニューロンは自発発火が多く、しばしばリズミックな増減パターンを示すこと、その入出力部位は明暗層のいずれかに限局することがわかった。また、非γ層からの出力神経は前大脳側葉部に終末するのに対し、γ層からの出力神経はそこに終末を持たず、葉部前部が主要な出力部位と想定されることもわかった。以上、これまでの研究成果を併せると並行処理された情報は基本的には分離されたまま行動企画領域に運ばれ、異なる運動出力に結びつく可能性が示唆された。
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