研究課題
幼少期に虐待やネグレクト(育児放棄)などの大きなストレスを経験すると、将来、うつ病や心的外傷後ストレス症候群(Post Traumatic Stress Disorder;PTSD)などの精神疾患の発症率が高くなるだけでなく、心臓病や肺がんといった身体の異常の発症率も上昇すると言われている。このような将来的に精神だけでなく身体までにも引き起こされる異常は、成長過程における脳内神経回路の不可逆的な変容が長期にわたって継続したためと考えられるが、その機序の詳細は明らかではない。本研究では、幼少期に母仔分離ストレスを継続的に経験したマウスを用いて、幼少期ストレスによって精神と身体の両方に異常を引き起こす脳内神経回路の変容機序の解明を目的とし、その性差についても検討することとした。令和2年度は次のような成果を得た。嗅覚による先天的恐怖反応試験時における、内分泌性のストレス耐性の指標である血中コルチコステロン濃度を調べた。その結果、幼少期ストレスによって、オスでは先天的恐怖刺激がなくてもコルチコステロン濃度が高レベルで維持され、試験時にはそれ以上の大きな上昇は見られなかった。一方、メスでは通常とは異なる変化は見られなかった。以上のことから、オスではメスに比べて、幼少期ストレスが継続的な内分泌性の異常をもたらし、それが身体に悪影響を与え続けることが示唆された。今後、この機序の解明に取り組んでいくと共に、内分泌性だけでなく自律神経性のストレス耐性についても検討を行っていく予定である。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染症の拡大等により研究実施計画に記載したスケジュール通り研究が進行しなかったので。
昨年度中に遂行予定であった研究計画を半年で遂行し、残りの半年で今年度の研究計画に取り組んでいく。
次年度使用額が生じた理由は、【現在までの進捗状況】の項に記述した通り、昨年度の研究計画が予定通り進行しなかったため。
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Molecular Neurobiology
巻: 57 ページ: 4989-4999
10.1007/s12035-020-02078-y
日本味と匂学会誌
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