かつては生体内には存在しないとされていたD-アミノ酸が,分析技術の発達に伴い,多くの動物から検出されている。哺乳類からも,D-セリン,D-アスパラギン酸,D-グルタミン酸などの多数のD-アミノ酸が検出され, D-アスパラギン酸はメラトニンやプロラクチンの分泌調節を行うこと,D-セリンは統合失調症やアルツハイマーに関与すること,D-グルタミン酸が心不全状態に関与することが知られている。また,哺乳類のマウス,ラット,ヒトからはD-セリンを合成可能なセリンラセマーゼ遺伝子が単離されている。本研究では,D-セリンを合成するセリンラセマーゼ以外のアミノ酸ラセマーゼが哺乳類に存在するかどうか,またセリンラセマーゼの哺乳類及び脊椎動物における分布を確認する事を目的として行った。 本研究では,哺乳類のウマ,ヒツジ,マナティー,コアラ,カモノハシ,鳥類のニワトリ,爬虫類のニシキガメ,アオウミガメ,両生類のアフリカツメガエル,サンショウウオ,魚類のゼブラフィッシュ,ジンベエザメ,シーラカンスに存在するセリンラセマーゼホモログ遺伝子の単離を行い,pET30ベクターまたはpMAL-c2Xベクターを用いたリコンビナントタンパク質の合成を行った。次いで,合成されたリコンビナントタンパク質を精製し,詳細な酵素活性パラメータの決定を行った。哺乳類以外の脊椎動物から単離されたセリンラセマーゼホモログでは,ごく僅かなセリンラセマーゼ活性が確認され,一部の動物では,アスパラギン酸ラセマーゼ活性も確認された。一方で,哺乳類のセリンラセマーゼホモログからは強いセリンラセマーゼ活性のみが確認された。また,哺乳類の中でも真獣類のセリンラセマーゼホモログが最も強いセリンラセマーゼ活性を持つことが明らかとなった。
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