| 研究課題/領域番号 |
20K06742
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| 研究機関 | 長崎大学 |
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研究代表者 |
岡田 二郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (10284481)
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| 研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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| キーワード | シンクロ現象 / ウェービング / チゴガニ / 個体間コミュニケーション / 同調行動 |
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| 研究実績の概要 |
広く日本の河口干潟に生息するチゴガニ（Ilyoplax pusilla）は、繁殖期を含む5月から8月までの期間、オス個体が鉗脚（ハサミ）を繰り返し振り上げるウェービングを盛んに行う。ウェービングは、メスへの求愛であるとともにライバルへの誇示であるとされ、近隣個体同士でそのリズムが良く同期（シンクロ）する。本研究では、行動観察および生理実験を通じて、チゴガニのオス個体間における視覚信号を介した相互作用の基本ルールを解明し、ここから導き出されるウェービングのシンクロ現象のメカニズムを明らかにすることを目的とする。
令和４年度は、ウェービング中の個体からハサミ運動筋の筋電位と心臓の脈波を同時記録することを当初目標とした。結論としては、計測装置を装着したカニはウェービングをまったく示さず、方法論の再検討を迫られることになった。しかし、心拍パターンと各種行動の関連については、後述のように有意義な知見を得ることができた。
脈波記録をもとに心拍間隔を求め、その揺らぎを表す散布図（ポアンカレプロット）を作成した。一般にヒトでは、プロットの分布が集中する（すなわち心拍の揺らぎが少ない）と、ストレス負荷の状態であると考えられている。カニが地上で活動する時、心拍数は比較的高く、心拍間隔は比較的一定で、ポアンカレプロットの分布は集中する傾向が見られた。巣穴潜伏時に実験者が海水を容器に加えると、心拍数は急激な低下に続き漸次的増大を示し、プロット分布は分散した（すなわち揺らぎが増大した）。逃避反応を惹起する視覚刺激を与えると、心拍数は低下し、プロット分布は集中傾向を示した。ポアンカレプロットの分布の集中は、ストレスフルと考えられる状況でしばしば見られたことから、カニの心拍の揺らぎの程度は、ヒトと同様にストレス指標となりうる可能性が示された。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和４年度は、令和３年度と同様に、協力者としての学部生が1名のみしか研究室に配属されず、マンパワー不足の影響を大きく受けた。また、令和３年度時点で既に判明していたが、筋電位用電極と脈波センサーを装着したカニがウェービングを行わないことが遅延の主な原因となっている。ウェービング以外のほとんどの行動は観察できること、本課題採択前の予備実験においてウェービング時のハサミ運動筋の筋電位を記録した事例があることから、今後もさらなる方法論の改善に取り組む。一方、心拍の揺らぎ解析では、各種行動との密接な連関が明らかとなり、今後の展開に重要な示唆を与える結果が得られた。
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| 今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、①ロボットを用いたウェービング時の個体間相互作用の解析、②カニ集団中に設置したロボットがウェービングに及ぼす効果、③ハサミ運動筋の筋電位および心臓活動から探るシンクロ・ウェービングの生成メカニズムについて、実施時期を限定せず、同時進行で進める。令和5年度は協力者にも比較的恵まれているため、特にこれまで未着手の②について、ある程度着実に進められるものと考えている。一方、③については上述のように困難な状況にあるが、工夫や改善を要する点は未だ残されている。例えば、最もウェービング活性が高まる7月から8月中旬までの大潮期に限定して集中的に実験を行う、ウェービングのモチベーションを高めるため盛んにウェービングを行う個体群の中に実験個体を置くなどである。以上の方策をもって令和５年度も継続して課題に取り組む予定である。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
当初見込んでいた物品費のうち消耗品類の新規購入が少なかったこと、新型コロナ感染症の流行により学会等旅費の支出が無かったことにより、次年度使用額が生じた。この残余は、令和５年度の物品費および旅費に充当予定である。
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