研究実績の概要 |
本研究は、疾患発症メカニズムを明らかにする目的で、まずは体内時計の乱れの指標となる時計遺伝子発現リズムを中枢および末梢複数組織で、独自に開発した組織密着型センサーシステムを用いて発光計測を利用して長期間計測する。そして生体リズムの乱れから糖尿病や睡眠障害などの疾患発症を極めて初期段階から同定し、発症機構解明の基盤となるシステムを構築することを目的としている。今年度は、中枢と末梢組織の時計遺伝子Period1(Per1)遺伝子発現リズムを長期間安定して計測できるシステムの構築に成功した(ito et al., Luminecence, 2020, Hamada K et al., BBRC, 2020, Nakajima et al., 2021)。脳には先端特殊加工した光ファイバーを末梢組織には組織密着型センサーを開発し、自由行動マウスの嗅球、大脳皮質、視交叉上核、肝臓、皮膚のPer1遺伝子発現リズムをリアルタイムに計測できた。さらに数カ月以上の計測には、発光基質であるD-luciferinを少なくとも7日毎にフレッシュな溶液をマウスに供給することで可能になることも報告した。確立した遺伝子発現計測法をもちいて、糖尿病に密接に関与している体内時計遺伝子発現をリアルタイムに解析した結果、発症の初期段階を捉えることが出来た(Knou et al., BBRC, 2021)。STZをマウスに投与し、血糖値、飲水量、体重変化を経時的に計測した。血糖値は投与後3日目に急激に上昇し糖尿病を発症した。その後飲水量増加、体重減少が観察できた。これら糖尿病が発症する過程においてPer1遺伝子発現をリアルタイムに定量解析したところSTZ投与後、1日以内に急激な発現上昇があり、その後発現リズムが消失することが糖尿病の重篤化に重要であることを明らかにし糖尿病の極めて初期段階を捉えることができた。
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