研究課題
哺乳動物では,睡眠-覚醒リズム,体温変動や代謝など,さまざまな生理・行動プロセスに,体内時計によって制御される概日リズムが観察される。冬眠哺乳動物は,夏季の活動期は恒温動物として,冬季の冬眠期は異温動物として過ごす。シマリス(Tamias asiaticus)の場合,冬眠期には,体温(Tb)が5-7℃になる5-6日間の深冬眠とTb を約37℃に回復する20時間程度の中途覚醒を繰り返す。深冬眠に入るときには代謝を抑制して体温を低下させていると考えられるが,この過程に概日リズムが関与しているかは分かっていない。また温度補償性を示す概日リズムが深冬眠時の低体温で機能しているかは興味深い問題であるが,そもそも冬眠期に概日リズムが機能しているかについてまだ結論が出ていない。冬眠哺乳動物の末梢時計についても解析は殆ど行われていない。そこで,本研究では,冬眠哺乳動物における末梢の概日時計の発現を明らかにするため,シマリス肝臓におけるPer2など時計遺伝子の発現について解析した。活動期には,マウス同様,覚醒時のTb上昇により活性化されたHSF1がPer2遺伝子の転写を活性化し,末梢の概日時計をTbリズムに同期させていた。冬眠期のPer2 mRNAは深冬眠中は低レベルであるが,中途覚醒時のTb上昇により活性化されたHSF1により一過性に増加しており,深冬眠-中途覚醒サイクルにおいて周期的な変動を示した。一方,冬眠期のBmal1 mRNAには周期的な変動は観察されなかった。概日リズムは時計遺伝子の転写-翻訳フィードバックループ(TTFL)に依存しているので,これらの結果から,末梢の概日時計が冬眠期には機能していないと考えられた。従って,冬眠期にはTTFLが形成されないことにより新たな遺伝子ネットワークが形成され,体温低下に必要な代謝抑制などが可能になっていることが示唆された。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 299 ページ: 104576~104576
10.1016/j.jbc.2023.104576