研究課題/領域番号 |
20K06749
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
山本 博章 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 客員教授 (40174809)
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研究分担者 |
田村 勝 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, チームリーダー (50370119)
矢嶋 伊知朗 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (80469022)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 毛周期 / 毛色 / 乾癬遺伝子 |
研究実績の概要 |
哺乳類の毛の再生周期等、比較的長い周期性を示す生命現象の分子機構の解明は進んでいない。申請者らは、マウスにおいて、12週齢前後を境に、新たな毛周期ごとに濃淡の毛色を交互に生じさせる毛色変異体を見出した。あたかも毛周期の経過回数をカウントするかのような表現型を示すこの変異体の原因遺伝子が、ヒト乾癬の1原因遺伝子であるCARD14遺伝子のオルソログであり、その特異な部位の変異が原因であることを発見した。本計画は、申請者らのみが保有維持するこのマウスCard14変異体の特異な周期的毛色変化を、長周期を示す生命現象の一モデルとして捉え、その分子機構解明の基盤を構築することが目的である。 初年度より当該Card14変異体の集団サイズを大きくし、それを維持することに注力しているが、ホモで致死であること、変異表現型発現までに少なくとも3~4週間を要し(さらに長い観察時間を要する個体も少なくない)、維持管理に努力を要してきた。当該変異は1塩基置換で、そのサイトを認識できる制限酵素がないため、変異個体の早期判別に簡便な方法をとることができないことが一因であった。この1塩基置換を正確に検出できるPCR法を開発できたのは、2年目にあたる今年度の成果の一つである。毛色発現と乾癬様症状の重篤度との関連を解析する際にも有用な手法を得ることになった。 初年度に開始した抗体を用いた当該遺伝子産物の発現解析については、数種類の抗CARD14抗体の中から利用できるものを慎重に検討し、Card14と相互作用する因子の同定にも利用できる抗体をようやく見出し、抗原のソースも利用可能となったところである。 対象とするCard14変異体における毛色発現の周期性が、乾癬様症状にも認められるのか、解明しておくべき課題であり、毛周期を可視化できるマウスの開発の必要性を強く意識するようになり、検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度には、課題であった特異な毛色発現を時系列で解析するために必要な変異体個体数を得ることができたが(変異アレルを持つ個体においても、毛色変化の強さが弱い個体もあるので、明確な表現型を示す個体を確保するには交配数をある程度大きくする必要があった)、明確な(強い)表現型を示す個体数を十分維持するために時間を要している。この点については、1塩基置換を容易に再現性良く検出できるPCR系が開発できたので、今後はこの状況の改善が見込まれる。 Card14タンパク質と相互作用する因子の解析に必須となる抗体の選抜については、市販の数種類の製品についての詳細な解析と、抗原とするタンパク質をどこから調製するか(皮膚や培養細胞等)、の検討に十分な時間が必要で、免疫沈降物に対して質量分析を行い得るところまで到達したのが年度末となった。できれば当該年度(2年目)にオービトラップLC-MSによる解析を開始したいところであった。 メラニン合成系遺伝子の発現解析を行うためのトランスジェニックマウスについては、高い組織特異性を担保できるプロモーター領域の抽出に困難があった。Card14変異遺伝子により引き起こされる乾癬様症状をも解析するために、毛周期を可視化できるトランスジェニックマウスの作製がより優先度が高いのではないかと考えるようになった。 当初の研究実施計画で予定していたように、これらの解析は初年度に開始し、2年目以降も継続することにしていたので、その点では予定した方向性で遂行中あるが、少し時間がかかっている。しかしながら、それぞれの課題について手法的な改善が進み、次年度(3年目)は当初予定の解析を開始できると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
毛周期におけるCard14遺伝子の作用機序解明の基盤を確かなものとするために、当該遺伝子の発現解析を進めるための抗体に目途がついた段階であるので、これを利用して当初の計画通りその発現解析を進めたい。またこの変異体では、毛色変化だけでなく皮膚の激しい肥厚が引き起こされる。これが毛色の繰り返しと同調しているかどうか、明確にする必要がある。毛色は、色素細胞の内外で機能する遺伝子産物の影響を受けるため、この記載(観察)は重要である。既報や我々自身の予備的な解析から、当該Card14遺伝子は表皮細胞の大多数を構成するケラチノサイトでの高発現がほぼ確かであるため、前記の皮膚構造における表現型解析は重要となる(山本、矢嶋、田村の全員が協力する)。 この解析を行う際には、皮膚の各領域が毛周期のどのステージにあるか、を検出することが重要である。それを可視的に判定できるトランスジェニックマウスの作製も試みたい。そのために利用できる制御領域の検討を急ぎたい(田村、山本が担当する)。 ケラチノサイトにおいて当該タンパク質が相互作用する因子を同定するために、抗体を用いた免疫沈降物をLC-MSによる解析で明らかにする計画もようやく実施できることになったので、これを遂行する(山本と矢嶋が担当する)。野生型の当該タンパク質は、他の因子と相互作用し得る領域を複数保有するが、これら既存因子との相互作用の実態だけでなく、新たな因子の発見につながることが期待される。 これらの実験結果を、長い周期を持つ毛色の繰り返し(皮膚構造においてもその可能性がある)に関わる当該遺伝子の作用機序解明の端緒として取りまとめ、当該領域研究の基盤構築に寄与したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスによる移動の自粛が続き、直接の打ち合わせが困難であったことや、2021年度においても実験補助で予定していた大学院生のアルバイトが予定通り依頼できなかったこと、さらにそれに伴う実験に必要な消耗品の使用が執行できなかったこと等により、未使用分が生じた。特にオービトラップLC-MSによる解析準備に時間を要し、その遂行が今年度に持ち越されたため、それに充当すべき予算の執行が2022年度に持ち越された。この解析は2022年度前期中には行える状態にある。
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