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2021 年度 実施状況報告書

ナメクジ嗅覚中枢の再生能力を用いてニューロンが同期する仕組みを解明する

研究課題

研究課題/領域番号 20K06750
研究機関徳島文理大学

研究代表者

小林 卓  徳島文理大学, 薬学部, 助教 (50325867)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードsynchronous oscillation / olfactory center / neuronal regeneration / mollusk
研究実績の概要

本研究課題では、脳の神経細胞(ニューロン)たちが美しく層状に整列して同期活動する仕組みと意義を明らかにすることを目指し、陸棲軟体動物ナメクジの嗅覚中枢の同期振動ネットワークが作られて行く様子を調べています。
これまでの研究から、分散培養で一度バラバラにした嗅覚中枢・前脳葉ニューロンが再び神経突起を伸ばして同期振動ネットワークを再形成することが分かっています(Kobayashi 2017,2019)。ナメクジ・ニューロンの自己再生能力を利用して、in vitro同期振動ネットワークが出来上がって行く過程をボトムアップ的に調べることで、これまでブラックボックスであった前脳葉ネットワークのひとつの側面が明らかになると考えています。
研究機器メーカーの製造停止などにより予定通りに進まないこともあったが、既存の設備機器を利用することで少し予定を変更しながら研究実績を上げることができました。ひとつは昨年に引き続き前脳葉の神経ペプチドに関する研究で、自発的な同期振動活動の振動数を低下させる役割が示唆される同定ペプチドFxRIaについて、具体的な神経機構を生理学的に調べ、Peptide誌に報告しました(Yamanaka et al. 2021)。これまでに調べてきた神経ペプチドたちが前脳葉内に広く分布または投射して同期振動活動を調節する主要な要因であることが分かってきたことは大変有意義であると考えます。さらにもう一報、前脳葉に存在するギャップ結合関連タンパクinnexinに関する研究についてPlos One誌に報告しました(Sadamoto et al. 2021)。Innexinはホモチャネルとして電気シナプスを形成する可能性があるので、前脳葉ニューロンの同期の仕組を知る上で最も重要な候補のひとつです。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究機器メーカーの製造停止による予定変更があったが、既存の設備機器を利用することで、少し予定を変更しながら幾つかの研究実績を上げることができたから(10.研究発表をご覧ください)。
具体的には、ナメクジ嗅覚中枢の同期振動ネットワークにおける①神経ペプチドの研究と②電気シナプスに関する研究で成果がありました。
①軟体動物腹足類の中枢神経系において多種多様な神経ペプチドがこれまでに見つかっており、ナメクジでも多くのペプチドが同定され、我々はその機能を示唆する結果をいくつも報告してきました。昨年度のenterinに引き続き、本年度はFxRIaについて調べ、自発的なシナプス電流と活動電位の発生を抑制する作用について報告しました。このような薬理学的作用により前脳葉の同期振動活動の変動を引き起こし得ること、精密な組織学的解析により前脳葉に対してペプチド作動性ニューロンの投射が確認されたことにより、嗅覚記憶中枢の第一候補でありながら未だブラックボックスのままである前脳葉ネットワークの一端が解明されました。
②電気シナプスの研究は前脳葉ニューロン同士が同期する際のメカニズムを考えるときに重要な視点であり、ギャップ結合関連タンパクにより電気的に接続しているのかどうかを調べるためにinnexinに注目して調べました。今回は分子生物学的解析のみでしたが、多種多様なinnexinタンパクが見つかり、未知の機構により細胞間コミュニケーションを行っている可能性が示唆されたことは、ニューロン間の同期の仕組みを考える上でとても興味深いことと考えます。

今後の研究の推進方策

今後も培養ニューロンを用いて網羅的な解析を行い、薬理学的作用や生理学的性質について概ねの目当てをつけた上で、単一ニューロンでの解析を行う予定です。具体的には、①引き続き神経ペプチドに関する薬理学的な解析、②電気シナプスおよびinnexinタンパクに関する電気生理学的な解析、そして、③in vitroでの同期振動活動の発生に関与しているコリナージックシナプスについての薬理学的解析を行う予定です。③のin vitro同期振動活動の発生にはアセチルコリンとニコチン性受容体を介した前脳葉ニューロンの興奮性の増大が重要であると考えられ、網羅的な解析がもう少しで完了しそうなのでこれを国内外で発表したいと思います。その上で、少し遅れている単一ニューロン記録での解析により、①~③についてのシナプス電流レベルにおける詳細な薬理学的解析を行います。培養ニューロンでの詳細な電気生理学的解析や、ペアの前脳葉ニューロンにおける同時記録はほとんど報告がないので、新しい知見が得られることを期待しています。

次年度使用額が生じた理由

学会出張等の旅費としての使用が無かったこと、実験諸費用を節約したことが主な理由です。さらに、年度初めの6月に発注した「データ解析用コンピュータ」が(再三の催促はしましたが)何故か納品されず、予定していた物よりずっと安価なものが年度終盤の2月以降にようやく納品されたため、予算執行の予定が大幅に狂ったことはとても残念です。主な使用計画としては、次年度以降の薬理学的実験、研究発表、旅費等に使用する積りです。また、本研究課題を進める上で必要な機器が不調を訴え始めているのでその更新や消耗品保守のために使用したいと考えています。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2021 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Identification and classification of innexin gene transcripts in the central nervous system of the terrestrial slug Limax valentianus2021

    • 著者名/発表者名
      Sadamoto H, Takahashi H, Kobayashi S, Kondoh H, Tokumaru H
    • 雑誌名

      PLoS One

      巻: 16(4) ページ: e0244902

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0244902

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] FxRIamide regulates the oscillatory activity in the olfactory center of the terrestrial slug Limax2021

    • 著者名/発表者名
      Yamanaka A, Kobayashi S, Matsuo Y, Matsuo R
    • 雑誌名

      Peptides

      巻: 141 ページ: 170541

    • DOI

      10.1016/j.peptides.2021.170541

    • 査読あり
  • [学会発表] Cholinergic induction of network oscillations in the slug olfactory neuron in vitro.2021

    • 著者名/発表者名
      小林卓、大森優衣、松尾圭介、樫村雅志、定本久世
    • 学会等名
      生物系三学会香川大会2021Online
  • [学会発表] チャコウラナメクジ嗅覚中枢のin vitro同期的振動ネットワークを駆動するアセチルコリン作動性シナプス2021

    • 著者名/発表者名
      小林卓、樫村雅志、大森優衣、松尾圭介、定本久世
    • 学会等名
      日本動物学会第92回大会オンライン米子大会
  • [備考] 徳島文理大学 神経科学研究所 兼任教員 香川薬学部専任 小林卓

    • URL

      https://www.bunri-u.ac.jp/ins/faculty.html

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公開日: 2022-12-28  

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