研究課題/領域番号 |
20K06750
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
小林 卓 徳島文理大学, 薬学部, 講師 (50325867)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | synchronous oscillation / olfactory center / neuronal regeneration / mollusk |
研究実績の概要 |
本研究課題では、中枢神経系(脳)の神経細胞(ニューロン)たちが美しく層状に整列して同期活動する仕組みと意義を追及することを目的とし、再生能力の優れたナメクジの脳を用いて、同期振動ネットワークが作られて行く様子を調べています。 陸棲軟体動物チャコウラナメクジの嗅覚中枢である「前脳葉」は、ヒトの脳と同様にニューロンが整列して層構造を形成し、同期振動活動により嗅覚情報処理(においの嗅ぎ分け・記憶など)を行っている。これまでの研究から、in vitroの分散培養系において、バラバラにした前脳葉ニューロンたちが再び神経突起を伸ばして同期振動ネットワークを再形成することが分かっている(Kobayashi 2017; 2019)。前脳葉ニューロンの自己再生能力を利用して、in vitroの同期振動ネットワークが出来上がって行く過程をボトムアップ的に調べることで、これまでブラックボックスであった前脳葉ネットワークのひとつの側面が明らかになると考えている。購入を予定していた研究機器や試薬の製造停止などにより、事業が計画通りに進行したとは言えないが、既存の設備や代替の試薬を使用することで、予定を変更しながら研究を進めてきた。前脳葉の同期振動活動を駆動し得るコリナージック支配について、複数のコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬を試すことで新しいニューロン間の接続様式が見つかることを期待している。また、これまでのin vitroニューロンネットワークの生理学的解析に加えて、形態学的解析ができるようになってきたので、2024年度は両側面からコリナージックシナプスと同期振動の仕組みについて考察して行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機器や試薬の製造中止により、研究計画の変更があったが、既存の設備機器や代替の試薬を使用することで、計画とは別の研究成果を得ることができました。 ①軟体動物腹足類の中枢神経系において多種多様な神経ペプチドがこれまでに見つかっており、ナメクジでも多くのペプチドが同定され、我々はその機能を示唆する結果をこれまでにいくつも報告してきた。神経ペプチドのFMRFa、enterin、MIP1などについて調べ、電気生理学的・組織学的解析の結果から示唆される働きと役割について共著論文にて発表してきた。多様な神経ペプチドの薬理学的作用により前脳葉の同期振動活動が調節され得ることが分かってきた。 ②コリナージックシナプスがin vitroの前脳葉ニューロン・ネットワーク内の同期振動活動発生の駆動力として重要であることがこれまでの研究から明らかになってきている。コリンエステラーゼ阻害薬であるフィゾスチグミン、ネオスチグミンが培養下の前脳葉ニューロンに対して興奮性の作用があり、すなわち、両者がコリナージックシナプスを賦活することでin vitroネットワーク全体の興奮性が高めていることを示唆している。一方で、in vitroネットワークにおける同期振動の発生に関してはフィゾスチグミンとネオスチグミンによる作用に差があることがみえてきた。このことは、両者の作用点こそが同期振動活動発生の仕組みの重要なポイントであることを示している。ナメクジの嗅覚記憶中枢でありながら未だブラックボックスのままである前脳葉ネットワークにおいて、細胞間コミュニケーションと同期の仕組みを考える上でとても興味深い点を見つけたと考えている。最近は培養ニューロンの組織学的解析ができるようになってきたので、生理学・形態学的観点から同期振動ネットワークの仕組みについて調べている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も前脳葉ニューロンを用いたin vitro同期振動ネットワークの網羅的な解析を行って行く。薬理学的作用や生理学的性質を観察するだけでなく、形態学的解析結果を見ながら同期振動の仕組みに繋がらうようなニューロン間接続の新しい様式を見つけて行きたい。上記の様な解析を用いて概ねの目当てをつけた上で、単一ニューロンでの解析を進めて行く予定である。具体的には、①神経ペプチドに関する薬理学的な解析の継続、②電気シナプスおよびinnexinタンパクに関する電気生理学的な解析、そして、③in vitroでの同期振動活動の発生に関与しているコリナージックシナプスについての薬理学的解析を行う予定である。③のin vitro同期振動活動の発生機構には先述のとおり、アセチルコリンとニコチン性受容体を介した前脳葉ニューロンの興奮性の増大が重要である。一方で、複数のコリンエステラーゼ阻害薬を使用することにより、コリナージックシナプス以外の要因が重要であることも示唆されているので、単一ニューロンでの解析により新しい接続様式、同期の仕組みが見つかることが期待されます。培養ニューロンではほとんど報告の無い、シナプス電流レベルでの詳細な薬理学的解析、複数の前脳葉ニューロンにおける同時記録により、新しい知見が得られることを期待しています。また、培養標本だけでなく、触角神経節と前脳葉によるsemi-intact標本を用いて、2つの同期振動ネットワークの関係から両者の同期振動とその相互干渉の仕組みを探ることも計画しています。そのための細胞外記録および細胞内記録のシステムは研究代表者の下に既に備わっています。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度より新たに組織学的解析を実施できるようになったこと、研究協力者から研究機器および材料の支援を受けたことにより研究費をさらに節約することができた。これらの次年度使用額は、本年度の研究成果を国際学会で発表すること、補助事業の目的をより精緻に達成するための研究を実施するために使用する積りである。
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