ホヤのプロスタグランジン受容体のリガンドである PGE2 の合成酵素遺伝子のホヤ卵巣における遺伝子発現分布を in situ hybridization により調査した。その結果、同遺伝子が stage III 卵胞のテスト細胞に発現することを明らかにした。またホヤプロスタグランジン受容体遺伝子の発現する stage I - II の卵胞に Ca2+ シグナリングを阻害するアンタゴニストを投与してトランスクリプトーム解析を行ったところ、その GO 解析の結果から、同受容体の不活性化により、受容体シグナリング、細胞骨格、硫酸化、に関連する遺伝子の発現変動が示唆された。さらに CRISPR/Cas9 を用いたホヤプロスタグランジン受容体遺伝子の破壊実験を試み、現在それらの遺伝子破壊ホヤを育成中である。 上記の結果を含めた研究期間全体を通じて実施した研究成果を以下に示す。カタユウレイボヤから新たにプロスタグランジン受容体を同定し、そのリガンドが PGE2 であること、そのシグナル伝達は Ca2+ シグナリングと cAMP シグナリングの双方を誘起することを明らかにした。哺乳類のプロスタグランジン受容体は Ca2+ シグナリングか cAMP シグナリングのどちらか片方を誘起するものであり、脊椎動物への進化の過程で複数種のプロスタグランジン受容体が誕生し、役割の分業化が生じたと予想される。また、遺伝子発現解析ではリガンドである PGE2 の合成酵素遺伝子が stage III のテスト細胞に発現し、プロスタグランジン受容体遺伝子が stage I - II の卵母細胞に発現することから、成長の進んだ卵胞から分泌されるプロスタグランジンが成長の遅れている卵胞に作用することで卵胞の生理機構を制御することが推測された。
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