研究実績の概要 |
エストロゲン刺激依存的乳癌発生分子機構の解明にあたり、ERα標的遺伝子の中でH2A.Z, H2A.Xの双方が遺伝子プロモーター領域に存在する遺伝子群の絞り込みを行った。この中には、BRCA1/2以外で遺伝性乳癌と関連することが報告され、DNA2本鎖損傷の相同組み換え修復に関わる遺伝子群が含まれていた。このため、DNA2本鎖相同組み換え修復に関わる遺伝子群(BRCA1/2に加え、PALB2, CHEK2, BARD1, ATM, RAD51C, RAD51D)の発現が、エストロゲン刺激依存的に変動するかどうかを評価することとした。月経サイクルのような 周期的エストロゲン刺激が、乳癌の易罹患性に関わる遺伝子群をエピゲノムレベルで制御していることが明らかとなれば、乳癌発生分子機構の一端が明らかになる可能性がある。また、エピゲノムレベルでBRCA1/2およびPALB2, CHEK2, BARD1, ATM, RAD51C, RAD51Dの発現が抑制されていることがDNA2本鎖損傷の相同組み換え修復不全に直結しているとすれば、体細胞レベルでhomologous recombination deficiency (HRD)を直接評価することの意義が高まる。 そこで乳癌培養細胞株MCF7を用いて、エストロゲン刺激および枯渇条件下において相同組み換え修復にかかわる遺伝子の発現に変化を認めるか、ウエスタンブロッティングを用いて検討した。48時間のエストロゲン刺激やエストロゲン枯渇状態では発現タンパク質量に変化をうかがわせるデータは出なかった。さらに長く8日間のエストロゲン刺激状態、エストロゲン枯渇状態さらにエストロゲン枯渇と刺激を繰り返すサイクルとういった条件で検討したところ、ウエスタンブロッティングのバンドで一部のタンパク質発現が変化している可能性があるデータを得た。この再現性を得るために同様の実験を繰り返したが、エストロゲン刺激に応じて発現が低下するDNA2本鎖損傷の相同組み換え修復因子群は明らかとはならなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
BRCA1/2に加え、PALB2, CHEK2, BARD1, ATM, RAD51C, RAD51Dのエストロゲン刺激依存的タンパク質発現変動を安定して評価できるまでに時間を要した。また、エストロゲン刺激の有無によるDNA2本鎖損傷修復に関わるタンパク質群の発現変動は予測していたよりも小さいものであり、かつ、再現性も得られなかった。
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