研究課題
多細胞生物は、環境に適応し生き残るために、新奇な細胞種を創出し細胞の種類を増やす進化を遂げてきた。隠蔽色や擬態などの生存戦略において動物の体色を作るために重要な役割を果たす色素細胞は、祖先型の脊椎動物には3種(黒、虹、黄色)存在するが、一部の魚類では白や青など新奇な色素細胞が加わった。進化の過程で生じる動物種間の細胞種の違いは、個体発生における細胞分化の種間差に帰すると考えられるが、その遺伝基盤はほとんど不明である。本研究では、魚類の個体発生の過程で白色素胞の分化がどのような遺伝子群に制御されているかに着目し、新奇細胞種が創出される発生学的な仕組みを明らかにする。これまでに、メダカにおいて白色素胞は黄色素胞の系譜から分岐して発生することが分かっている。そこで、既存の細胞種(黄色)と新奇な細胞種(白色)がそれぞれ特異的に発現している遺伝子群をRNA-seqによる発現解析により比較し、系譜の分岐点でどのような遺伝子群が働いているのかを調べる。2020年度は、RNA-seqに向けて、黄色と白色の各前駆細胞を分画する実験系を開発した。各前駆細胞がGFP蛍光を発するトランスジェニック(Tg)メダカから、セルソーターを用いて蛍光陽性細胞を単離する条件を検討した。上記のTgメダカは色素細胞以外にも神経細胞に強いGFP蛍光を持つので、色素前駆細胞を高純度に分画するためには神経細胞を如何に除去するかが課題であった。そこで、上記のGFP-Tgメダカと、神経系にRFP蛍光を発現するTgメダカを交配することで二重Tgメダカ(GFP/RFP-Tgメダカ)を作製し、GFP/RFP陽性の神経細胞をGFP陽性の細胞集団から除去する方法を試した。結果、神経細胞はRFP陽性により大部分が除去できるものの、GFP陽性細胞分画に僅かながら混入するため、純粋な色素前駆細胞集団を単離するのは難しいことが判明した。
3: やや遅れている
新型コロナ感染症緊急事態宣言により、研究室への出入りが制限されたため、細胞分画に必要なTg系統の繁殖が遅れ、セルソーターによる細胞分画が思うように進まなかった。
目的とする色素前駆細胞分画に神経細胞が混入することを前提として、RNA-seq解析を進める。当初予定していなかったが、神経細胞だけがGFP陽性となるTgメダカ(ノックインメダカのホモ接合体)をセルソーターにかけ、GFP陽性分画の神経細胞に発現する遺伝子群を特定する。その上で、計画通り別途GFP/RFP-Tgメダカを用いて、GFP陽性色素前駆細胞(僅かに神経細胞が混入した分画)の発現解析を行い、その結果から上の神経細胞発現遺伝子を差し引くこととする。次に、RNA-seqにより同定される候補遺伝子群から、特に重要と思われる転写因子を抽出し、白色素胞発生におけるそれぞれの機能を解析する。具体的には、メダカの胚発生における発現解析や、CRISPR/Cas9による変異体作製とその表現型解析を行う予定である。
研究の遅れにともなって、消耗品の購入に若干のずれが生じた。2021年度に当初計画を実施するにあたり、予定通り使用する。
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iScience
巻: 23 ページ: 101674~101674
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