研究課題
多細胞生物は、環境に適応するために、新奇な細胞種を創出し細胞の種類を増やす進化を遂げてきた。色素細胞は、動物の体色形成に中心的な役割を果たすが、進化にともなって多様化した代表的な例である。脊椎動物の祖先は黒色素胞と虹色素胞を持っていたと考えられるが、魚類の出現とともに黄色素胞が誕生し、多くの脊椎動物は3種類の色素細胞を持つに至った。さらに一部の魚類では白色素胞や青色素胞などが新たに獲得された。このような細胞多様性の進化は、個体発生における分化制御機構の変化に帰するが、その遺伝背景は不明である。本研究では、白色素胞を持つメダカをモデルとして、個体発生の過程で白色素胞の分化がどのような遺伝子群に制御されているかを明らかにしたいと考えている。これまでに、メダカにおいて白色素胞は黄色素胞の系譜から分岐して発生することが分かっている。そこで、黄色素胞と白色素胞の比較発現解析によって、白色素胞特異的に発現する遺伝子群の同定を試みた。色素前駆細胞を蛍光ラベルしたトランスジェニックメダカを用いて、フローサイトメトリー法により白色素胞および黄色素胞の前駆細胞を分画収集した。しかし、蛍光ラベルのために用いたプロモーター遺伝子が色素細胞だけでなく神経細胞にも高発現していたため、神経細胞の混入が避けられず、結局、色素前駆細胞を高純度に単離することはできなかった。一方、分化した色素細胞全種(黒、虹、黄、白)について、自然着色を目安にマニュアルピックアップにより50~100細胞を収集した。これらの試料をもとにRNA-seq解析を行ない、各色素細胞に特異的に発現する遺伝子群を網羅的に同定することができた。白色素胞特異的遺伝子群の中には、他の色素細胞の40~70倍以上の発現量を示す有望な転写因子が含まれていた。今後は、この転写因子の機能解析を行ない、白色素胞の分化における役割を明らかにしたいと考えている。
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