研究課題/領域番号 |
20K06770
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
古水 千尋 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 寄附研究分野教員 (90808479)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 陸上植物の進化 / 植物―動物間相互作用 / 共進化 / 植物ペプチド情報伝達系 / 植物ペプチド性情報因子の進化 / 植物ペプチド性情報因子受容体の進化 |
研究実績の概要 |
成果1「植物ペプチド情報伝達系の進化について、俯瞰的に分析した」植物ペプチド情報伝達系についての先行研究を整理し、「少数のモデル植物へのデータの偏り」を課題として見出した。この解決に向けて、既知のペプチド・受容体の保存性について、系統的に多様な植物を使って解析した。関連する総説原稿1編について、査読を経て、採択の正式決定に向けた改訂作業を行っている。 成果2「植物ペプチド情報伝達系の受容体の進化を明らかにした」植物内在ペプチド性情報因子の受容体を複数含むLRR-RLKサブファミリーXIに注目し、分子系統解析を行ない、サブファミリー内での配列の多様化の過程を明らかにした。さらに、植物の唯一のステロイドホルモンであるブラシノステロイドの既知の受容体BRI1の相同遺伝子と考えられる配列をコケ植物から見つけた。本発見は、植物ホルモン受容機構の成立に関する通説の再考を促すものである。得られた研究成果を、査読あり原著論文1編として発表した(Furumizu and Sawa, 2021)。 成果3「植物と異種生物の相互作用に関わる可能性があるペプチド候補を同定した」植物の内在ペプチド性情報因子に似た分子をコードする遺伝子を、植物と相互作用する可能性がある微生物のゲノム上で探索した。得られた研究成果を、査読あり原著論文1編として発表した(Yuan, Furumizu, et al., 2021)。 成果4「植物の情報伝達分子として働くRGFファミリーペプチドの配列の進化を明らかにした」RGFファミリーペプチドの配列進化を詳細に解析し、コケ植物のRGFファミリー遺伝子の機能を調べた。得られた研究成果に基づく原著論文1編の原稿がほぼ完成し、次年度早期に投稿する予定である。 上記以外の研究成果として、成果1と成果2に関連する内容を国内学会発表1件として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「次年度使用額が生じた理由と使用計画」に述べるように、研究課題の実施順序を変更した。その結果、バイオインフォマティックス解析が大きく進捗し、重要課題の特定や、成果の発表に結びついた。一方で、実験室内での植物材料を使う実験については、一部の実験を延期したが、研究対象遺伝子の機能を明らかにするために必要な形質転換植物の作製は順調に進展した。 総合的にみて、3年間の研究計画全体を円滑に実施するための初年度の研究目標を十分に達成しており、研究は順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の進捗を踏まえて、以下に述べる2つの研究課題に重点的に取り組むことにより、陸上植物のペプチド情報伝達系の進化や起源についての、更に実証的な議論を展開していきたいと考えている。 1「RGFファミリーペプチドの進化」初年度は、RGFファミリーペプチドの配列の多様性を明らかにした。この多様性を生み出す仕組みや、配列進化に影響を与える内的・外的な要因について研究し、植物のペプチド性情報因子の進化についての一般性が期待されるのかについても検討していきたい。 2「ペプチド受容体様タンパク質の起源と脱オーファン化」初年度は、ペプチド受容体様タンパク質についてのバイオインフォマティックス解析も大きく進展した。この成果に基づいて注目する受容体様タンパク質を絞り込み、その機能やリガンドを明らかにすることを目指す。これにより、陸上植物がペプチド情報伝達系を獲得した初期過程を理解することに迫りたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
社会情勢を鑑みて、大学の実験室内での実験活動が困難になる状況を想定し、予定していた研究課題の実施順序を変更した。具体的には、植物材料を使う実験の一部を延期して、今年度は計算機を用いるバイオインフォマティックス解析と、これにより得られたデータに基づく論文執筆など、在宅でも可能な研究活動に注力した。これに伴い、植物育成用人工気象器の購入を延期したため、次年度使用額が発生した。一方で、計算機を購入し、データ解析や論文執筆を円滑に進行することに役立てた。 植物育成用人工気象器は次年度に購入し、延期した実験にも、次年度以降に順次着手する。これにより、予定していた研究課題を滞りなく進捗させる計画である。
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